(十八)

「陽菜の『自分の欠片』は太陽の形をしている。黄金の光を放ち、触るとほのかに温かい。

 次は悠稀。悠稀の『自分の欠片』は、水色でぷよぷよしている。自我を持っているわけではないが、悠稀に見つけられたら手のひらにひょこんと乗っかるだろう。

 そして美麗。美麗の『自分の欠片』は……」


 そこでアリシス様は言葉を止めた。そしてしばらく考えるようにして黙り込んだ後、静かに一言、こう言った。



「美麗の『自分の欠片』は……見えない」



 その言葉に、私は呆気にとられる。私だけ……見えない?


「すまない。それでは語弊があるな。勿論、美麗にも『自分の欠片』は存在するのだ。だが、透明で肉眼で見つけることはまず不可能だ。……だから、『自分の欠片』を自分の心の中から探し出せということだ。……あまり役に立てず、すまない」

「いえ、ありがとうございます。その言葉が無かったら、私は私の外側を探してしまっていた」


 確かに、前の私だったら落ち込んで、絶望していたかもしれない。しかし、私はこの『雲』、そして『海』の世界で、悠稀君と陽菜ちゃんをはじめ数多くの人に出会って、様々な経験をして、少し成長出来た。

 『自分の欠片』は私の心の中にある。抽象的で、すごく難しいけれど、悠稀君と陽菜ちゃんがいれば、何でも出来る気がしていた。心の中に『自分の欠片』がある。そのことを感じながら、そっと胸に手を当てた。


 その後も二時間程パーティーは続き、とうとうパーティーもフィナーレを迎える。どうやらアリシス様からの言葉でパーティーが締め括られるようだ。


「ここに集いし『海』の民よ。今日はげに素晴らしき日。人間と我々との間に和平が結ばれた。

 千年。千年という長い年月の流れを今宵、変えたのだ。それはここにいる『海』の民は勿論、勇気を出してここに集った美麗、悠稀、陽菜の三人のお陰だ。昔と体制は違えど、我々はまた共に平和に暮らすことが出来る。

 最後にもう一度、三人に大きな拍手を!」


 アリシス様がそう言うと、城は大きな拍手と歓声に包まれた。「和平万歳」と叫ぶ者。クラッカーを鳴らす者。感動で涙を流す者。それぞれが皆和平を祝福している。私たちも盛大な拍手をアリシス様と、そして『海』の動物達へと送った。


「『海』の民よ。今日はパーティーへの参加、感謝する。では、これにて閉場とする」


 アリシス様のその一言で、皆名残惜しそうにしながらも、ゆっくりと門へ向かった。私達も遅くなってしまったので、アリシス様へ挨拶した後、すぐに旅館に戻った。


 慣れない正装を早々に脱ぎ、丁寧にしわを伸ばしてハンガーにかける。何度見ても精巧な作りで、まるで高級ブランドのドレスのようだった。


 ドレスを脱ぎ、部屋着に着替えた私達は入浴を済ませ、すぐにベッドに潜り込んだ。今日は二人とも雑談する体力が残っていないのか、ベッドに入るとすぐに寝息が聞こえてきた。その心地良い寝息を遠くに聞きながら、私も深い眠りの海に沈んでいった。



 翌朝、と言っても起きたのは正午だったのだが、私達はこの後のことについて話し合った。『自分の欠片』のヒントが分かった今、私達がとる行動はただ一つだった。


「『自分の欠片』は『海』にあるか『雲』にあるか、そこは正直わからない。でも、俺の『自分の欠片』は『海』にある気がするんだ。水色でぷよぷよしている。……何だか水と関係がある気がするんだ」

「確かにそうだね。私は逆に『雲』にある気がする!だって太陽の形をしてるんだもん」

「だな」


 そこまで言って、二人は口を閉じる。恐らく私のことを気にしているのだろう。


「私なら大丈夫。正直、『雲』でも『海』でもない、自分の心の中から探し出すって、すごく難しいことだと思うけど、今一度自分についてよく考えてみる」

「そうだな。……力になってやれなくてごめん」

「ううん、平気。ありがとう。それより、まずは悠稀君の『自分の欠片』を探そう。コン君にも手伝ってもらおうよ」

「そうだね!」

「俺の『自分の欠片』が見つかったら、コンともお別れなんだな」

「うん……寂しくなるね」

「でも、もし会えないとしても、私達とコン君はずっと友達だよ!」

「ああ、勿論」

「うん!」


 コン君とのお別れを考えると、少し寂しくなる。折角友達になれたのに、もう離れ離れになるなんて。でも陽菜ちゃんの言う通り、私達はずっと友達。その事実は変わらないことに少し安心する。


「じゃあ今度こそ、本格的な『自分の欠片』探しを始めるとしよう!」

「「うん!」」


 こうして私達の『自分の欠片』探しの旅は、再び幕を開けたのだった。

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