(十五)
古城に着き螺旋階段を昇り酔ってきた頃、コン君の尻尾が目に入った。陽菜ちゃんはコン君の姿が見えると大きな声で
「コンくーん!遊びに来たよー!」
と呼んだ。すると、コン君は嬉しそうにこちらを振り向き、たたたと駆けてきた。
「うわぁ。遊びに来てくれたの?嬉しいな」
「勿論だよ。だってコン君とはお友達なんだもの。遊びたいにきまってるじゃない!」
陽菜ちゃんにそう言われたコン君は頬を赤く染めて頭を掻く。どうやら嬉しい時の彼の癖のようだ。
「ほら。お弁当作ってきたんだ。一緒に食べよう」
「来る前に俺がほとんど食べちまったけどな」
「ちょっとはー君!僕の分ちゃんと残ってる?」
「うん。きっとコン君がお腹いっぱいになるくらいは残ってるよ」
「良かったぁ」
「私も作ったんだよー!」
「え!なーちゃんも作ってくれたの?僕のために?」
「正確には皆のために、だけどな。まあ細かいことはいいや。さっさと食べようぜ。お腹空いた」
「嘘でしょ!?悠稀君、さっきあんなに食べたのにもうお腹空いたの?」
「当たり前だろ。高校生の食欲舐めんなよ」
「全然えばれることじゃない!後、コン君の分もちゃんと残しておいてね。こんなに食べるなら、もっと作ってくればよかった」
「そうだねお姉さん。まさか私達の中に空腹モンスターがいただなんて……」
「そうだ。俺は空腹モンスターだ。だから陽菜のことも食べちゃうぞー」
「ぎゃー。お兄さんこわーい」
そう言って陽菜ちゃんは私に体重を預ける。こんな出来事前にもあったなと思いながら陽菜ちゃんの頭を撫で、お弁当の包みを開ける。コン君は目を輝かせておかずやおにぎりを覗き込み、「これって何て名前のご飯なの?」を繰り返していた。『海』の世界の食材は魚がほとんどだったので、下ごしらえや調理が少し大変だったけれど、『ここ』では味わえないおかずを作ることができて大満足だ。
私達は「いただきます」と声を揃え、お弁当を食べる。悠稀君とコン君の食べるスピードはとても速く、あっという間に全てのおかずとおにぎりがなくなっていた。陽菜ちゃんは
「私全然食べてない!」
と嘆いていたので、
「また今度作って一緒に食べよう。ね?」
と言って何とかなだめた。そんな陽菜ちゃんのふくれっ面を見て、悠稀君とコン君はバツが悪そうにしていた。しかしお腹は膨らんだのか、先程より元気があるように見える。
お弁当を食べた後、私達は夕方まで駄弁っていた。昨日アリシス様のパーティーの招待状が来たことを話すと、コン君は自分のことのように喜んでくれた。
「それは良かった。僕、取れてるかなってここで心配してたんだ。人が少なくなった後、僕もあの掲示板の前に行ったんだ。今回のパーティーはイギリス式なんだね。ドレスやタキシードみたいな正装で行かなきゃいけないんだって。でも、君達人間は似合うだろうけど、僕みたいな狐とか、はたまた竜とかが正装してたら面白いよね。僕思わず笑っちゃうよ」
コン君に言われて想像すると何とも面白い光景で、思わず笑ってしまった。陽菜ちゃんも悠稀君も同じことを想像したのか、隣で順番に吹き出していた。
しかしそこではっとする。私達も正装で行かなければならない。でも正装なんて……。
そう思っていた時だった。私の思考を察したのか、コン君が鼻の下を擦ってえっへんと胸を叩く。
「今みーちゃん、『正装がない』って思ったでしょ。ご安心くださいな。じゃじゃーん」
そう言ってコン君は以前バリケードを張っていたところから、白いカバーのかかったマネキンを三体持ってきた。
コン君が白いカバーを取ると、そこには淡いピンク色のドレス、白がベースで黄色のチュールのついたドレス、そして赤いネクタイが際立つグレーのタキシードがあった。どれも美しく精巧に作られていて、私達は目の前にあるドレスとタキシードをうっとりと見つめた。
「どう?気に入った?君達、パーティーに参加するだろうなと思って、昨日から夜なべしてこの服作ったんだ」
「すごい……すごいよコン君。まるでプロが作ったみたい」
「ああ……しかもこれをたった一日でだろ?俺なんて半年かけてエプロン作ったのに家庭科の成績二だったぞ」
「この黄色のチュールがついてるドレス、私の?すっごく可愛い!しかもブローチが向日葵だ!私向日葵大好きなの!」
私だけでなく、悠稀君も陽菜ちゃんも大はしゃぎである。そんな私達の様子を見て、コン君は少し恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうにしていた。
「なーちゃん、はー君、みーちゃんは僕にとって初めてのお友達なんだ。だから、何か出来ることはないかなと思って。それに、お弁当もありがとう!明日はこれを着てパーティーに参加してよ。それで、アリシス様と交渉して、和平?条約を結んできて!そうすれば、もし君達が『雲』や『ここ』に戻ったとしても、また会いに行ける!」
私は感極まって、目から涙が溢れてしまった。陽菜ちゃんも、「泣いてないもん!」と言いながら目を擦っている。悠稀君は泣いてこそいないものの、先程から鼻をすすっている。
「どうしてみんな泣いてるの?ほら、笑って笑って!それで、明日のパーティーが終わったら、また会いに来てよ」
「うん……うん!」
私達は四人で手を合わせ、また会うことを約束した。そして、綺麗なドレスとタキシードを持ち、古城を後にした。コン君が見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも手を振り続けた。
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