(十四)
翌朝、私達は女将さんが部屋をノックする音で目が覚めた。今回はドイツがモチーフの部屋に泊まったため、ドアノッカーの音が小気味良く部屋に響いた。私は重い瞼を何とか持ち上げ、急いでドアを開ける。
「アリシス様からの招待状、三名様分です。皆様、明日のパーティーに参加されるのですね」
「そうなんです。届けて頂きありがとうございます」
「いえいえ。楽しんできてくださいね。では」
女将さんは目を糸のように細めてにっこりした後、仕事に戻っていった。今は私達以外にお客さんはいないようだ。
『海』も『雲』も、お金という概念がない。作った作物は皆に分け与え、困っている者がいたら助ける。そんな思いやりの世界だ。
何だか申し訳ないという気持ちと、『海』や『雲』のような世界は素敵だなという気持ちが合わさる。ふとそんな考えに
「それなぁに?お姉さん」
陽菜ちゃんが目をとろんとさせて言う。
「もしかして、アリシス様のパーティーの招待状か?」
悠稀君はぴょこんとついた寝癖を抑えながら言う。
「その通り!招待状が三人分届いたよー」
「やったー!これでパーティーに参加できるね!」
「なあ、前にコンが言ってた和平、俺らで出来ないのかな」
「確かにそれが出来たら嬉しいけど、そんなこと出来るのかな」
「でも、なんかお兄さんなら出来そうだよね」
「確かに」
「二人ともそれ、絶対良い意味じゃないだろ」
「まあまあ。悠稀君なら何も考えずに行動できそうってことだよ」
「それ全然褒めてないじゃんか。まあでも、そう御膳立てされると出来そうってなるから不思議だよな」
「その意気その意気」
「まあ、アリシス様と話す機会があれば、交渉してみるだけしてみるか」
「そうだね」
「お兄さん、お姉さん。次はいつキスするの?」
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
「あのなぁ陽菜。そういうのは言われてやることじゃないの。分かる?」
「うーん。分かんない!」
「やっぱりガキだなぁ、陽菜は」
「失礼しちゃう!ねぇお姉さん。私ガキじゃないよね?」
「うーん。そういうのを聞いちゃう辺りはまだまだ子供かなー」
「えー。お姉さんまで!」
はははははという私と悠稀君の笑い声が響く。陽菜ちゃんはむすっとした顔で私達を見ている。しかし私達がずっと笑っているのを見ていてうつったのか、段々と笑顔になり、最後には声を上げて笑っていた。やはり私達は、誰かが笑っているとうつってしまうようだ。またそれが、楽しいのだけれど。
今日はコン君のところへ遊びに行くことにした。古城への道はウネウネとしていて少し歩きづらいため、途中で休憩する時に食べるお弁当を持っていくことにした。私と陽菜ちゃんは部屋の中にあったキッチンを使い、食材は女将さんからもらって、三人分のお弁当を作った。作っている途中、悠稀君がちょこちょことキッチンに入ってきてつまみ食いをしてきた。
「俺はつまみ食い係だから」
と言ってぱくぱくとつまんでいった。あまりにもつまむものだから、ほとんど二人分になってしまったけれど、朝ご飯もたらふく食べたから足りるだろうと思い、悠稀君のつまみ食いには目を瞑ることにした。
……となると、悠稀君の胃のキャパシティは一体どうなっているのだろうか。男子高校生の食欲は恐ろしいなとつくづく思った。
悠稀君のつまみ食いで半分ほど減ってしまったお弁当を持って、私達三人はコン君のいる古城へと向かった。途中で食べようかと思っていたが、意外と体力が余っていたのでコン君と一緒に四人で食べることにした。
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