(十)

「やったぁ!お友達!お友達!ねぇ、本当にお友達になっちゃった!わぁ、嬉しいなぁ。ねぇねぇ、何する?お友達同士って何するの?」


 尾崎君があまりにも早口でまくし立てるので、私と悠稀君は呆気に取られていた。しかし陽菜ちゃんは彼の言葉についていっていたようで、ニコニコしながら彼と会話している。


「そうだなぁ。例えば、あだ名のつけあいっことか!尾崎君は、『コン君』とかどう?」


「もう!狐が皆『コンコン』って鳴くと思わないでよね。……でも、コン君か。何だか可愛いな」


「でしょでしょ!じゃあ今度、私にあだ名付けてよ」


「うーん。陽菜っていう名前がもう素敵だからな。あだ名付けるの難しいな」


「そんな、照れちゃうー」


「でも、せっかくあだ名付けてくれたんだから僕も陽菜にあだ名付ける!じゃあ、『なーちゃん』は?」


「いいね!すごく可愛い!ありがとう」


 陽菜ちゃんに褒められた尾崎君……コン君は、照れくさそうに頭を掻いた。


「次、俺」


「え?」


 コン君が思わず聞き返す。そう言ったのは、なんと悠稀君だった。……悠稀君もあだ名をつけて欲しいのだろうか。


「もう俺ら、友達なんだろ。だったら、俺と美麗にもあだ名付けて」


 悠稀君が言うと、コン君は驚いた表情を見る見るうちに笑顔に変えた。その変化はまるで、桜の開花を見ているようだった。


「もちろん!じゃあ、悠稀は「はー君」、美麗は「みーちゃん」ね」


「どっちも頭文字取っただけじゃん。……まあいいや。気に入ったならそれでいいよ」


「わーい!はー君、ありがとう」


「そんなにいちいち名前呼ばなくていいって。照れるだろ」


「可愛い~はー君」


 コン君にからかわれた悠稀君は少しすねたような表情をしている。私と陽菜ちゃんは、この表情をしている時の悠稀君は満更でもないということを知っているが、コン君はそれを知らないため、焦ったように


「はー君って沢山呼んでごめんってば。もうあんまり呼ばないから。ね?」


「コン君。こういう時のはー君はね、少し楽しんでいる時なの。だから、まだまだ沢山呼んであげて」


「そうなの、はー君?良かった~。僕はー君を怒らせちゃったかと思ってひやひやしたよ」


「はー君はー君しつこい!っていうか美麗まではー君って呼ぶな!」


「ふふふ、またまたー、照れちゃって」


「照れてねぇ!」


 私達の一連のやり取りを、陽菜ちゃんはコメディドラマを見るかのように楽しそうに眺めていた。


「なぁ、尾崎。尾崎ってここに長くいるんだろ?『海』について知ってること、詳しく聞かせてくれないか?」


 コン君は「勿論だよ!」と言って胸を叩く。彼が首元の鈴を「チリンチリンチリン」と三回鳴らす。すると私たち四人は、ひゅーっと別空間に吸い込まれた。

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