(九)
「もしかして、貴方の名前は『御先狐』?」
すると、彼は驚いたように目を丸くして
「正解!」
と言った。何だか、心做しか嬉しそうだ。
「すごいねお姉さん。僕の名前を当てちゃうなんて。君、『お兄さん』より年下でしょ?ほらほら『お兄さん』、年下のお姉さんのおかげだよ?感謝しないと。って、お兄さんとかお姉さんとかもうややこしいや。お兄さんとお姉さんのお名前、教えてよ」
「私の名前は
「俺は
「そうかそうか。美麗ちゃんに悠稀君。いやぁ実にいい名前だ。
ところでお姉さん、どうして僕の名前、見事当ててしまったの?絶対分からないと思ったのになぁ。まあ、お姉さんが答えたのはあくまで僕の種類だけどね」
「実は昔、オカルトや怪談話にハマったことがあって、そこで色々調べていた時に、鈴で変身し、頭からしっぽまで黒い線が入っているという御先狐のことを知ったの」
私がここまで説明すると、御先狐は満足げに頷いた。
「そうそう。僕に関心を抱いてくれたのかぁ。でも、僕の種類は確かに“オサキギツネ”だからおまけでオッケーしちゃったけど、本当は僕、“オザキキツネ”って言うんだ。尾﨑狐。どう?そのまんまだけどかっこいいでしょ」
「うん。素敵。格好いいよ」
私が褒めると、尾崎君は頬を赤に染めて頭を掻きながら
「ほんとに褒められると、恥ずかしいじゃんかぁ」
と言いながらさりげなく持っていたバットを床に置き、陽菜ちゃんをバリケードから出した。一瞬、悠稀君がつまらなそうな顔をしたのは、気のせいだろうか。
……しかしよくよく考えてみれば、一見バリケードのように見えるが、所詮はただ机を並べただけのものだ。陽菜ちゃんでも、少し押しのければ出られたはずなのに、どうして出てこなかったのだろう。
「あ、出してくれてありがとう。尾崎君とのお話、凄く楽しかったよ。……ほら、言わなくていいの?さっきまで言ってたじゃん。『お兄さんとお姉さんとお友達になりたい』って」
陽菜ちゃんのその言葉を聞いて確信した。尾崎君はいい人(狐)なのだ。ただ、仲良くする方法が上手く掴めていないだけで。
「陽菜ちゃん、陽菜ちゃんがいなくなってからすぐに気が付けなくてごめんね。本当に、本当に……」
「そんなに謝らないで、お姉さん。お姉さんのせいじゃないんだから。お姉さんは考えすぎ。全部お兄さんのせいくらいに思っておかないと気持ちが持たないよ」
「何だと?……確かに俺も監督不足だった。ごめんな」
「ちょっとお兄さんまで謝らないでよー。冗談だって。ああもう、尾崎狐君のせいだよ!もう。ここに連れてきたことは全く何とも思ってないけど、お兄さんとお姉さんを謝らせたことは謝って!」
「おい陽菜、言いたいことは分かるんだがちょっと複雑になってるぞ」
「わわわ、ご、ごめんなさい。僕、ただ皆とお友達になりたくて……。で、でも、どうやってお友達になったらいいかわからなくて……」
「そんなの簡単だよ。こうやって、お手手を出して、『お友達になってください』って言うの。それで、手を取り合ったらはい、もう仲良し!」
「陽菜ちゃん……」
小学生らしい、可愛らしい表現に思わず名前を読んでしまう。当の陽菜ちゃんはなぜ名前を呼ばれたのか分からずきょとんとしている。
すると、尾崎君は大きく息をした後、私達三人に向けてふわふわとした手を差し出した。
「ぼ、僕とお友達になってください!」
「はい。喜んで」
「勿論だよ!」
「……ったく、しょうがねえな」
そう言って、私達は尾崎君の手を柔らかく包み込む。彼は頬を赤らめ、とびきりの笑顔を見せた。
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