(八)
何故?さっきまで、一緒にいたはずなのに。
「どうしよう。私のせいだ。私がちゃんと見ていなかったから、陽菜ちゃんが、陽菜ちゃんが……」
「落ち着け、美麗。美麗のせいじゃない。俺達で探そう。きっと陽菜はこの城の中にいるはずだ」
そう言って悠稀君は私の背中をさする。それだけで、少し脳は冷静になったようだ。一度大きく深呼吸をしてゆっくり立ち上がり、目の前に立ちはだかる長い長い
どれくらい上ったのだろうか。螺旋階段に酔い始めたその時だった。上の方で、コツコツという音がする。床に何かが当たっている音。
陽菜ちゃんが危ないと、直感で分かった。悠稀君と目が合う。お互い考えていることは同じだった。強く頷くと、先程より上るスピードにギアをかけた。
一番上まで辿り着くと、そこには拘束はされていないものの学校の机のようなもので作られたバリケードの中に閉じ込められている。そして、そのバリケードの前には、一人の男の子がいた。……しかしよく見るとおしりからしっぽが生えている。……狐?
「よお!待ってたぜ、お前らのこと。この陽菜って子、『お兄さんとお姉さんのもとに返して!』っていうから誰が来るんだろうってワクワクしてたよ。てっきり芋臭い人間が来ると思っていたけど、案外美男美女じゃないか」
「そんな話、今はどうでもいい。お前、陽菜に何もしていないだろうな。陽菜、怪我はないか?」
「う、うん。大丈夫だよ。
「陽菜をこんなところに連れ出して閉じ込めて、良い奴も何もないだろ!さっさとここから出してやるからな。とりあえずお前、その物騒な金属バットを床に置け」
ああ、さっき聞こえたコツコツという音は、彼の持っている金属バットの先端が床に当たる音だったのか。
「誰の指図もうけないよ、と言いたいところだけどそろそろ彼の堪忍袋の緒が切れそうだしね。床に置くとするよ。……とでも言うと思った?」
そう言って、彼(人間ではないが、限りなく人間の見た目をしているので彼と呼ぶことにする)は口角をきゅっと上げ、不敵な笑みを浮かべる。悠稀君は「なっ……」と言って声にならない唸り声をあげている。
「嘘嘘、冗談だって。そんなに怒らないでよ~。ね?でも、僕だって自分の武器をタダでおくわけにはいかない。だから、そうだねぇ、クイズを出そうか。僕の出すそのクイズに答えられたら、このバットを置いてあげる。あ、そこの『お兄さん』だけだと頼りなければ、そこに突っ立ってるお姉さんも参加していいよ。まあ、答えられないだろうけどね」
彼は不敵な笑みを更に不敵に、そして少しだけ楽しそうにした。
「いちいち煽るような言い方をするな。まあいい。そのクイズ、早く出してくれ!」
「その意気その意気!僕優しいから一問だけ!じゃあ、ジャラン!僕の名前は何でしょう」
「はぁ?」
悠稀君が間抜けな声を出す。私も声には出さないが心の中では同じ声を発してしまった。彼の名前なんて分かるはずがない。そんな私達の心中を見破ったのか、彼は楽しそうにけたけたと笑う。その音は、まるで鈴の音のようだった。……待てよ。彼のしっぽにある黒い線、そして今の鈴の音のような笑い声。私の推測が間違っていなければ……
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