(六)
「じゃあ、お兄さんとお姉さんの恋バナも聞かせてよ。私ばっかり話したからね」
「わ、私は女子校だから恋する相手なんていないよ」
「あ、ずるいぞ
「あ、お兄さんに関しては嘘だってこと知ってます。白状して下さい。好きな人いるんでしょ?」
「おい、陽菜。何のことだ」
「じゃあ私から言います。お姉さん、お兄さんの好きな人はね……」
「あー分かった分かった!ごめんって。つかなんで陽菜が俺の好きな人知ってるんだよ」
「あ、お兄さんやっぱり好きな人いるんだ」
「はめたな!?」
策士な陽菜ちゃんにまんまと
「え、悠稀君の好きな人って誰?高校の人?」
「違ぇよ」
「誰だろう。陽菜ちゃん知ってるの?」
「うん。お姉さんがよーく知ってる人だよ」
「えー?じゃあ私の学校の人とか?悠稀君の隣の高校の人とか?」
「さあね。この話終わり!俺ばっかり問い詰められるぜ」
「よく言うよお兄さん。さっきまで私に散々質問したくせに」
「そう言えばそうだったな。じゃあ次美麗。いないとか言ってたけど、絶対いるだろ。中三なら」
「だから、女子校だからいないって。悠稀君もしつこいなぁ」
「誰が言ってるんだ。さっきまで俺に散々質問したくせに」
「陽菜ちゃんの真似するんじゃないよ、もう。悠稀君も誤魔化したから、私だって言わないよーだ」
「言わないってことはいるってことだな」
「はいはい、いますよ〜」
「え!お姉さんもいるの!?やっぱり!?」
「やっぱりって、陽菜ちゃん私の好きな人知ってるの?」
「大体予想はつくよ。分かりやすいもの」
「全然気が付かなかった。ばらしちゃだめだよ?」
「どうしよっかなー」
「こらー!」
陽菜ちゃんがにやにやとしながら私と悠稀君を交互に見る。
「二人とも、両想いなんじゃない?」
「「え?」」
悠稀君と声が重なる。私と悠稀君が両想い?というより、悠稀君の好きな人って私だったの?
「おい、俺は美麗が好きだなんて一言も言ってないぞ?」
「そうだよ。私だって言ってない」
「見てたらバレバレだよ。お兄さん、クリスタルの箱を見つけた時、お姉さんに小声で何か言ったでしょ?あの時、『それが嫌なんだよ』っていじけてたもん」
「陽菜!それ言わない約束だろ」
「そうだったの?」
「うん」
「陽菜。後で覚えてろよ」
「ひえぇ。お姉さん助けてー」
「私だって怒ってるぞー」
「きゃー」
深夜にも関わらず私達三人の鬼ごっこが始まる。部屋が広い為、逃げる場所は沢山ある。しかし小学四年生が高校一年生と中学三年生に
「おい陽菜!」
「陽菜ちゃん!」
「「どういうことなの!?」」
再び私達の声が揃ったことが面白かったのか、陽菜ちゃんは声を殺して笑い始めたが、今置かれている状況を思い出したのか目の端に溜まった涙を拭いながら話し始めた。
「お兄さんもお姉さんも気が付かなかったの?お互いがお互いのことを好きだって。小学四年生の私が気が付いたのに?鈍感だなあもう。まあでも、これを機に付き合っちゃえば?その時は覚えといてね。二人を結び付けたキューピットはこの私、陽菜だってこと」
と言ってふんぞり返る。私と悠稀君は顔を見合わせた後、頬を紅潮させて
「おーい、二人とも、大丈夫?もしかして、怒ってる?」
陽菜ちゃんが少し不安げに私と悠稀君の顔を見つめる。すると、先程まで俯いて黙っていた悠稀君ががばっと顔を上げた。
「大丈夫な訳ねぇし怒ってもねぇ!ただ動揺してるだけ!だから心配すんな!」
そう早口で捲し立てる彼の顔を見て驚いた。彼もまた、顔を林檎色に染めていたのだ。そんな悠稀君が可愛くて、場違いだと分かっているのに笑ってしまう。
「ちょ、美麗。何で陽菜がこんな重大なカミングアウトした後なのにそんな余裕なんだよ」
「ごめんごめん。ただ、顔を真っ赤にしてる悠稀君が可愛くて」
「可愛いとか言うな!……で、どうなんだよ」
「……何が?」
勿論悠稀君が何を言いたいのかなんて百も承知だ。しかし、言葉にしたら負けのような気がして意地悪く聞き返す。悠稀君は林檎色の頬を更に紅潮させ、消え入りそうな声でこう言う。
「………………………かよ」
「え?」
「俺のこと、好きなのかよ」
かなりどストレートな質問に面食らうも、ここまで直接的に問われたらもう誤魔化しはきかないと思い、観念して答える。
「……好きだよ」
「俺も美麗のことが好きだ。……俺と、付き合ってくれませんか」
「……はい」
悠稀君から差し出された手を、強く握り返す。悠稀君の手は、ごつごつしていて、それでいてとても温かかった。
それまで息を潜めて成り行きを見届けていた陽菜ちゃんが、手を取り合った私達に向けて祝福の拍手を送ってくれた。私と悠稀君は、お互いの顔を見た後、陽菜ちゃんに向けて微笑んだ。陽菜ちゃんも、満面の笑みで私たちを祝ってくれた。
夜風が心地好い日の夜三時のことだった。
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