(五)
今日の夜、私達は温泉に入った後、相も変わらず魚尽くしの夕食を食べ、部屋でボードゲームをした。三回戦も行った為、終了した時に時間を見たら夜中の一時を回っていた。ボードゲームは悠稀君が一番強く、毎度大金をゲットしていた。おもちゃの札束で
一時まで寝ずに遊んだことにより全員が覚醒してしまい、私達はそのまま布団に入って話をすることにした。最初は『ここ』の世界で起こった面白いことなどを話して大笑いしていたのだが、いつの間にか話題は恋バナになっていた。恐らくきっかけは、陽菜ちゃんの「やっぱりお兄さんのこともお姉さんのことも大好きだなあ」という一言だろう。そこから私達の恋バナは始まったのだ。
「え、俺らのこと好きなの?」
「うん。大好きだよ」
「嬉しいね。悠稀君」
「まあな。でもそれって『人として』ってやつだろ?陽菜はクラスに好きな子とかいないのか?」
悠稀君がそう言うと、陽菜ちゃんは顔を真っ赤にして
「えーいるの!?どんな子どんな子?」
「言わないよー」
陽菜ちゃんは困ったように言う。しかし悠稀君も止まらない。
「俺達はその子の名前を聞いても分からないし、応援するだけだ。笑いもしない。ほら、言ってみろ」
一見するといい事を言っている様に聞こえるのだが、実際には小さい子を騙し誘導する言葉でしかない。
「
そう打ち明ける彼女は、まさに恋する乙女の表情をしていた。それを聞いた悠稀君は、得意げに鼻の下を擦り、
「その悩み、この恋愛マスター、悠稀様に任せなさい」
とふんぞり返っている。悠稀君、本当に恋愛マスターなのだろうか。陽菜ちゃんも、若干疑いの眼差しを向けている。
「おい、そんな風に見てるけど、本当だぞ?俺は恋愛マスターなんだからな」
二回も言うと、何だか
「じゃあ教えてください師匠」
「よくぞ聞いてくれた陽菜殿。さて、貴女のお悩みは好きな彼と話すことが出来ない。これですよね?」
「はい」
「これは確かに難しい問題ですね。しかし私恋愛マスターにかかればすぐ解決します」
「本当ですか?」
「はいそこ!疑いたっぷりの問いをぶつけない!」
私が茶茶を入れると、恋愛マスターのテンションで突っ込まれる。面白いが、陽菜ちゃんの悩みが解決するなら聞くしかない。陽菜ちゃんも同じ様な表情で聞いている。
「オホン。改めて、私の秘策を紹介しましょう。名付けて『ラブトークチャレンジ』!」
英語が分からないであろう陽菜ちゃんは、おーと感嘆の声を漏らしていたが、私からするとネーミングセンスが皆無すぎて吹き出してしまった。するとまた恋愛マスターからの指摘が飛ぶ。
「はいそこ!笑わない!」
「すみません。どうぞ続けてください」
「オホン。ではこの『ラブトークチャレンジ』について説明しましょう。この秘策をマスターすると、不思議なくらいに好きな人と話すことが出来るのです!」
「そうなんですね!」
「そうなんです。では今からその具体的な方法にを伝授していきましょう。まずは笑顔で挨拶をするところから始めます。この時表情が
「サッカーかな?習い事でやってて得意みたい」
「なるほど。それではサッカーについて質問してみるのが良いでしょう。彼は自分の得意なことについて訊ねられて嬉しいはずです。更にワンステップ上を行きたい場合は、彼の変化に気が付き指摘すること。例えば髪を切ったり服装がいつもと違ったりする時、さりげなく『髪切ったね。似合ってるよ』と言ってあげることで好感度がアップします。これを続けていくことで、彼は貴女を意識し始めるでしょう。それに、話していくにつれて、陽菜自身も緊張がほぐれ、上手く話せるようになっていきます。最初は上手くいかなくても、焦らず時間をかけて彼との距離を縮めてみて下さい」
思っていたより悠稀君のプレゼンがしっかりしていて思わず私と陽菜ちゃんは拍手を送る。悠稀君はスターのように「ありがとう。ありがとう」と言って手を振っている。恐らく深夜テンションが混ざっているが、それにしても悠稀君のアドバイスは的確だ。
「悠稀君、本当に恋愛マスターなんだね。彼女いるの?」
すると悠稀君の勢いは一気に
「いない」
と答える。話を聞くと中学生の時、悠稀君も陽菜ちゃんと同じように好きな人と上手く話せなかった為に、サイトで上手く話せるようになるコツを収集していたらしい。だからここまでプレゼン出来る程詳しいのか。
「ま、まあとにかく、この通りにすれば必ず好きな人と上手く話しができるし、あわよくば両想いにだってなれるんだぞ」
陽菜ちゃんは「両想い」という単語に顔を赤らめる。そんな彼女が可愛らしく、私と悠稀君は陽菜ちゃんの脇腹を突っつく。それが意外と効いたらしく、陽菜ちゃんの反撃が
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