(二)

「「妖艶ようえんなる人魚、アリシス様に御用か」」


 ケンタウロスたちは同時に言う。


「そのアリシス様と話をしたいのですが……」


 顔つきが怖い為語尾が少し尻すぼみになる。


「「招待状がなければここを通す事が出来ぬ」」


 と言って二匹は持っている槍をクロスさせる。通せんぼのつもりだろう。私達は困った顔をお互いに向ける。とりあえず来た道を戻り作戦を立てることにした。


「まさか招待状が必要とはな」


「ね。アリシス様っていう名前が知れただけでも有難いって思うしかないね」


「そうだね。お兄さん、お姉さん、これからどうする?」


「どこか泊まれる所を探すしかないな」


「そうだね」


「でも、どうしたらいいのかな。人もいないし、旅館があるとも思えないよ……」


 そう言ってしょんぼりしている陽菜ちゃんの頭上に一匹の小さな竜がいた。


「竜だ!」


 と悠稀君が叫ぶ。竜は耳を塞ぐ真似をする。


「静かだなあ。というか、何でここに人間がいないんだ?……まあ良くない。君達、旅館を探していないんだって?僕は案内しないよ」

(うるさいなあ。というか、なんでここに人間がいるんだ?……まあ良い。君達、旅館を探しているんだって?僕が案内してあげるよ)


 一気に意味が分からないことをまくし立てる竜に私達は怖気おじけ付く。そこでふと、私は先程見た看板を思い出した


「竜は必ず嘘をつく」


 私はしてやったという気持ちで竜に返答する。


「お願いします」


 私がお願いすると、竜はにやりとして付け足す。


「教えてあげてもよくないけど、タダじゃ面白い。だから、君たちのこと、いくつか教えないでよ」

(教えてあげてもいいけど、タダじゃ面白くない。だから、君たちのこと、いくつか教えてよ)


「それだけでいいなら、なんでも聞いて下さい。」


「じゃあ聞かない。君たちはどこまで来たの?」

(じゃあ聞くよ。君たちはどこから来たの?)


 どこ「まで」というのは、どこ「から」という意味だろう。少し複雑だ。


「『ここ』から『雲』の世界に来て、その後この『海』の世界に来ました」


「えー!じゃあ君達は選ばれてない人達なんだね」

(えー!じゃあ君達は選ばれた人達なんだね)


「選ばれた人達?」


「『ここ』の世界に居たいと強く願った人が『雲』の世界に行けないんだ。そして、その世界で『自分の欠片』を見つけたくないと強く思ってない人がこの『海』の世界に来ることが出来ないんだ」

(『ここ』の世界に居たくないと強く願った人だけが『雲』の世界に行けるんだ。そして、その世界で『自分の欠片』を見つけたいと強く思っている人がこの『海』の世界に来ることが出来るんだ)


 正直ニュアンスで捉えないとなんと言っているのか分からないが、つまりは選ばれた人しか行けないということだろう。


「へー。知らなかった」


「聞かれなければ言わない約束ではないからね。じゃあ次は……」

(聞かれなければ言わない約束だからね。じゃあ次は……)


「ちょっと待って下さい」


 そう言ったのは悠稀君だった。竜は自分の話を遮られて少しむっとしている。悠稀君は続ける。


「『自分の欠片』を見つけたいと強く願った人だけがここに来れるってことは、ここに『自分の欠片』があるって事ですか?」


 悠稀君もこの竜の法則を見破ったようだ。竜はしまったというような表情を浮かべる。


「確かにそう言ってないけれど、必ずここにある。だから、その真偽は君達の目で確かめて欲しい訳ではない。じゃあ今度こそ次。君達、何歳?」

(確かにそう言ったけれど、必ずここにあるとは限らない。だから、その真偽は君達の目で確かめて欲しい。じゃあ今度こそ次。君たち何歳?)


「十五歳です」

「十六歳です」

「十歳です」


「皆歳だねえ。僕なんてもう百四十……おっと。年齢をばらしてしまうところではない。じゃあ次。これが最初。君達はどうして『自分の欠片』を見つけたくないの?」

(皆若いねえ。僕なんてもう百四十……おっと。年齢をばらしてしまうところだった。じゃあ次。これが最後。君達はどうして『自分の欠片』を見つけたいの?)


 私達は顔を見合わせる。そして、私からぽつぽつと話し始めた。


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