(四)
彼女達は俗に言う妖精のような
「ようこそ、『雲』の世界へ」
「ここは、現実から離れることの出来る世界」
「ここにいる間、現実世界の時間は止まっています」
「正確には、『止まっているように感じる』のです」
「難しいのですが、頑張って説明しますね」
「皆様が住んでいる『ここ』から、私たちの住む世界『雲』は全くの別世界にあります」
「先程乗って頂いた電車はこの二つの世界を繋ぐ架け橋のようなもの」
「そして『雲』にいる間、『ここ』では時間が流れません」
「しかし『ここ』に住んでいる皆様は時間が止まっているとは感じません」
「三人方が『雲』に行き、別世界での時間を過ごし、『ここ』に戻った時、三人方は全く同じ場所、全く同じ時間からまた『ここ』での生活を送るのです」
「難しいですがそういうものだとご理解ください」
「そしてここからが一番重要です」
「『雲』から『ここ』へ戻った時、皆様は『雲』での記憶の一切を失います」
「私たちの存在や『雲』の存在、そして、ここで過ごした記憶も全て」
「「「え……」」」
先程まで彼女達が交互に話すのを聞いていた私達三人の声が揃う。出会ってまだ数時間も経たないが、私達は不思議な縁でここにやって来た。それなのに、お互いのことを全て忘れてしまうなんて。
「忘れない方法はないんですか」
そう聞いたのは、意外にも悠稀君だった。最も彼の事だから私たちのことを忘れたくないという純粋な感情だけではないと思うけれど。
悠稀君の言葉に、彼女達は困ったようにお互いを見る。そして少しの沈黙があった後、こう告げた。
「記憶を失わない方法は、一つだけあります」
「三人方全員がこの世界で『自分の欠片』を見つけること」
「残念ですが、これしか方法はありません」
「そして、『自分の欠片』を見つけられた人は、まだ居ません」
「その『自分の欠片』ってのはどうやったら見つけられるんですか?」
「『自分の欠片』は必ず『雲』の世界に存在します」
「しかし、人によって形や色、大きさ、光り方も様々なのです」
「それに場所も様々」
「この広い『雲』の世界で探すのは本当に大変なのです」
「しかし、『自分の欠片』が何なのかご自身で気がついた時、『自分の欠片』は皆様の元へやって来ます」
「皆様が『自分の欠片』を見つけられるよう、私共は応援しています」
着いてすぐ、
彼女達が去った後、私達の間に気まずい沈黙が流れた。どれくらい長く続いたのだろうか。数秒だったような気もするし、数分だったような気もする。それ程までに重い沈黙の後、ゆっくりと口を開いたのは、またもや悠稀君だった。
「なぁ、探そうぜ。『自分の欠片』。見つかるか分かんないけど、行動しないよりマシなんじゃない?」
「確かにそうだね。お兄さんの言う通り。私も賛成だよ」
「もちろん私も。……正直、『自分の欠片』は探すより自分で気が付くのが一番早いのかも。まぁ、それが出来たら苦労しないけどね」
「だな。まぁとりあえずここを楽しむことを考えようぜ。折角ここに導かれたんだ。楽しまないでどうする」
「「賛成!」」
最後は私と陽菜ちゃんの声が被る。その声に悠稀君はにっと笑い、先陣を切って歩いて行った。
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