(二)
彼女はそう言って私の方へてくてくと歩いてくる。思考がまとまらない。この電車に私以外の乗客がいる?彼女は誰?そして何故私のことを知っている?そんな私の脳内を読んだかのように彼女は私の隣に座って話し始めた。
「私は
彼女はここで一旦話を区切り、大きく深呼吸をしてから続けた。
「……私、不登校なんだ。四年生になって一ヶ月くらい経った時、急に行けなくなっちゃって。最初の一ヶ月くらいは休ませて貰えたんだけど、段々『ウソツキ』なんじゃないかって思われて、無理矢理学校に行かされてる。本当は嘘なんかじゃないし行きたくもないのに。……いじめられてるんだ。学校が始まってから、急にみんなが私を避け始めた。だから行きたくないのに。誰も私の話を聞いてくれない。……でもお姉さんは優しいね。私の話を聞いてくれて」
涙で潤んだ目を真っ直ぐ私に向ける彼女は、とても嘘をついているようには見えなかった。何故、彼女の親は彼女を疑ったのだろうか。
「……私も不登校とは少し違うけど、学校に上手く通えてないんだ。……もしかして、この電車はそういう人が乗れる電車なのかな?」
陽菜ちゃんが口を開きかけた時、車内に
「後一時間程で、『雲』に到着致します。後一時間程で、『雲』に到着致します。」
というアナウンスが響いた。
「お姉さんがさっき言った通り、この電車は不登校とか、何かしら学校に負の感情を持っている学生が乗れるみたい。お姉さんの他にも、もう一人高校生のお兄さんが乗ってるよ。一回目のアナウンスが流れた時にお兄さんを見つけて、その後お姉さんも見つけたんだけどお姉さんぐっすり寝てたからもう一回来たんだ。降りてからお兄さんと合流しよう。多分私達三人以外に乗客はいないと思うよ」
分からないことだらけだ。陽菜ちゃんの他にもう一人乗っている。そして一回目のアナウンスに私は気が付かなかった。ということは一時間程寝てしまったのだろうか。
「『雲』って、どんなところなんだろう。……学校、無いといいな。さっき見た時、街みたいだったから」
陽菜ちゃんは曖昧な笑みを浮かべる。この笑顔を私は知っている。本心を冗談のように軽く言って本心であることを隠したい時に浮かべる、一種の自己防衛である笑み。小学四年生からこの笑顔が出来るのは、やらないと自分が壊れてしまうからだったのだろう。そんな環境に追い込まれてしまった陽菜ちゃんの気持ちを考えるといたたまれない。
「確かに、学校無いといいよね。学校行きたくないって思って到着した不思議な世界に学校があったら絶望的だよね」
と私も
何から自分を守りたいのか分からない。でも、自然と浮かんでしまうこの笑み。陽菜ちゃんと、もう一人の「お兄さん」の前ではこの笑みではなく、気持ちのこもった笑顔を見せたいと思った。
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