第一章 雲 (一)

ピピピ。ピピピ。


 例のごとくアラームが鳴る。目を開けずにアラームを止めるという行為は、いつしか私の特技となっていた。重たい目を開け、なまりのような体を起こし制服を着る。そしていつもと同じように朝ごはんを食べ、諸々もろもろの準備を整え学校へと向かう。


 この日も朝は憂鬱ゆううつだった。なんとか身支度を終え家を出たものの本当は行きたくなかった。学校の最寄りへ着いても駅のベンチで座ることしか出来なかった。次の電車が来たら行く、次の電車が来たら行く、そう思い続けてもう三十分経つ。電車を見送っていても意味は無い。分かっていても足が動かない。


 神様、お願いします。今日は、今日だけでも学校を休ませて下さい。


 自分勝手な祈りを必死に続けていたその時だった。無意識に閉じていた目を開けると、有り得ない光景が目の前に広がっていた。




 先程まで忙しなく動いていたサラリーマン達が、皆銅像のように固まっているのだ。それだけでなく、最寄りの駅には見たこともないような色と形をした電車が止まっていたのだ。


「え……」


 思わず声を漏らす。この電車は何なのだろう。貨物列車のたぐいだろうか。しかしその予想は電車に表示されている行き先で違うと分かった。行き先には


〈雲 ← ここ → 海〉


 と書いてあった。雲?海?ここ?一体この電車は何?この世界に何が起こったの?思考があふれれば溢れるほど、体はこの電車に吸い寄せられていった。

 すっと足を伸ばし電車に乗り込むと、ドアはプシューという気の抜ける音を立てて閉まり、すぐに出発した。体勢を崩した私は慌てて近くにある座席に腰かける。


「……!!」


 声にならない声が出る。この座席、高級ホテルのロビーにあるソファを思い出させるほどふかふかなのだ。そしてもう一つ気になったことがある。これは私の思いすぎかもしれないが、この椅子は学校の相談室にある赤いソファと色味がどことなく似ている気がする。   

 「学校の相談室」という単語で学校をサボってしまったことを思い出し少し罪悪感を覚えるが、この異常事態に学校も何もないと自分を納得させる。落ち着こうと目を閉じると、朝にも関わらず疲れていたのか睡魔にいざなわれた。


 どれくらい眠ったのだろうか。目を覚ましたその先に広がる光景は、先程まで寝ていた脳を一気に覚醒させるほど美しく、そして摩訶不思議まかふしぎなものだった。


 そこは確かに雲の上だった。しかし、飛行機内で見るような景色とはまるで違う。雲一面に広がっているのは、色という色がふんだんに使われた街並みだった。繁華街のような所もあれば、田園、テーマパーク、観光都市のような所まで、地上と変わらない、でもどこかそれとは違う景色が目に飛び込んでくる。

この不思議な世界に圧倒されていると、隣の両とこの両を繋ぐドアが開く。

 ぎょっとしてそちらを振り向くと、小学生くらいの女の子が首をかしげて立っていた。



「あ、お姉さん起きた?」

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