「雲」の世界で

花宮零

プロローグ

ピピピ。ピピピ。


 無機質なアラームの音が部屋に響き渡る。かろうじてアラームを止めるが目を開けたくない。開けたら学校に行くという事実だけが私を侵食していく気がしたからだ。


「起きてるの?もう七時よ。学校は?」


 この会話をするのはもう何度目だろうか。学校に行きたくなくても


「起きてる。行ける。平気」


 としか言えない。

 お母さんの離れていく足音を聞きながら私はため息をつく。




『学校』




 つぶやくと、私の心はより一層重くなる。何でこうなったのだろう。どうしてこんな気持ちになるのだろう。ずっと考えて、答えの出ない疑問。

 学校という場所は、私にとっておりのような場所となったのだ。

 


 きっかけは分からない。ただ、朝目覚ましが鳴り、いつもの様に起きようとすると体が動かない。学校へ行こう、そう思うだけで涙が止まらなくなる。ただ焦ることしか出来なかった。学校へ行かなければ。そんな思考とは裏腹に、私の体は石のように固まって動かなかった。どうやったら休めるだろうか。仮病を使おうか。麻痺した脳で必死に考えていると、お母さんが


「8時だけど、大丈夫?」


 と部屋に入ってきた。大丈夫じゃない。学校へ行きたくない。でもこんなことを言ったら心配させてしまう。色々な思考がめぐった。

 しかし母の顔を見ると、複雑な思考は全て吹き飛び


「学校に行きたくない……」


 ただ一言、口をついて出てきたのだった。

 お母さんは驚いたように目を見開いた後、


「どうしたの?」


 と訪ねた。理由も聞かれず、ただ学校に行きなさいと言われると思っていた私にとってこの一言は救いだった。

 私は、学校へ行こうとしても体が動かないことを伝えた。


 結局この日、学校へ行くことは出来なかった。

 今日だけだろう。そう思っていた私の考えはとても浅はかであったと、この後気がつくのだった。

 

 

 私の名前は神崎美麗かんざきみれい。中学三年生。中学受験をした為に、「お嬢様学校」と呼ばれる中高一貫校に通っている。私が学校に行けなくなったのは中学三年生の時。原因ははっきりある訳では無い。そう、はっきりある訳では無いのだ。





 


そんな生活の中、私は不思議な体験をした。

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