第2話 黄昏の暗殺計画
(いつになったら終わるのかしらねこの任務)
差し出された娘は黄昏ていた。
ギーナはただの貴族令嬢ではなく、生まれはずっと低い身分だった。
田舎村の貧しい夫婦の家に生まれたギーナの幼少期は普通に幸せで、毎日限界まで働く両親を見ながら自分がいつか家族を支えるのだと思っていたのだが、ある日村は盗賊に襲われて滅んだ。
両親から大切に育てられていたギーナはそこそこ容姿が整っており、殺されずに盗賊の手によって奴隷商に売り飛ばされた。
奴隷時代の環境は地獄で、毎日誰かの泣く声が聞こえる中でギーナは必死になって生にしがみついた。
とある人間が飼い主になりたいと申し出たので少し期待したが、待っていたのは更なる地獄だった。
飼い主は殺し屋組織の親玉で、ギーナと同じような境遇の子供を買い集めては殺しの技術を仕込んでいた。
最初は動物から始まり、いつの間にかギーナは人間の解体を覚えた。
薬学や医学にも精通し、容姿を利用しながらこれまで何人も敵を闇へ葬ってきた彼女の最大の任務こそ、魔王の討伐だった。
(毒は効かないし、寝込みを襲っても刃が心臓まで届かないときました)
正直お手上げだった。
見た目は人間なのにあらゆるスペックが化け物なのだ。
そして、ラルク最大の謎がギーナの待遇である。
(また生かされたわけだけど、完全に遊ばれていますわよね?)
妻として迎え入れられた後、最初の暗殺に失敗したギーナは死を覚悟した。
きっとラルクは怒り狂い、人間を皆殺しにするかもしれないと思ったのに彼は笑うだけだった。
『殺し屋の花嫁か。……ふふっ。なんだか面白いから気に入ったよ』
生きた心地がしなかったが、その艶のある妖しさに目を奪われかけた。
それからは苦難の日々が続き、ギーナはラルクを早く殺せるように手の限りを尽くしたが彼にとってギーナの暗殺はじゃれ合いでしかないと気づくのに時間はかからなかった。
(次は生きたまま火炙りとか?)
毎日殺されかけているというのに、ラルクはギーナを処分するどころか魔物の世話を任せて自身は貴族の仕事に集中している。
ありがたいことにブラッドレイ公爵領では魔物の力を借り放題なので開拓が爆速で進んで移民希望者が殺到しているのがまた悩ましい。
貴族となって結婚してからのラルクは超有能領主でギーナも人並み以上の暮らしが約束されている。
おかげで焦った貴族達から殺しの催促がよく届く。
(無茶を言ってくれますわよね。こっちがどれだけ苦労しているかも知らないくせに)
今日もまた催促の手紙を足にくくりつけた鳩が何匹も飛んできたので嫌々返事を書く。
【聖剣クラスの武器があれば殺害は可能です。至急、手配してください】
ギーナの凄腕の殺し屋としての評判も過去のものだ。
雇い主から出された最後の依頼が魔王の暗殺だが、それを成し遂げなくては約束は果たされない。
(勇者と聖女はどこでなにしているのでしょう……)
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