何でもないフリ 2023/12/11

 恋人はよく俺のことを、ミスターポーカーフェイスと呼ぶ。

 何でもないフリがうまいと言いたいらしい。


 確かに、俺は感情が薄いという自覚はある。

 この前一緒に激辛カレーを食べさせられた時も、ほとんど動じなかったくらいだ。


 一度彼女に、退屈だろうと聞いたことがある。

 だが、クールなのがいいとのことだ。

 そしていつかその表情を崩させるのが夢だとも言っていた。

 道理でよくイタズラを仕掛けられるはずである。

 まあ、彼女が良いならそれで良いのだ。

 こんな自分にとって、よくできた恋人だと思う。


 付き合ってから半年後、彼女の誕生日が近づいてきた。

 付き合ってから初めての誕生日だったので、サプライズでプレゼントをすることを思いつく。


 さり気なく欲しいものを聞き出し、プレゼントを買う。

 だがプレゼントを買ってからというもの、気が気ではなかた。

 自分にこんな感情があるということに驚いたくらいだ。

 かなり挙動不審だったと思うが、特に彼女から聞かれることはなかった。

 まさか自分のポーカーフェイスに感謝する日が来るとは!


 そして誕生日当日、タイミングを見計らって、プレゼントを渡す。

 だが喜んでいても、驚いた様子はなかった。

 不思議に思って、彼女に聞いた。


「だって、何かあるって丸わかりだったもの。

 気付かないフリは大変だったわ」


 だが、俺は彼女の様子に全く気づかなかった。

 どうやら彼女は、俺よりも何でもないフリが上手なようだ。

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