仲間 2023/12/10

「ゾンビってさ、食事じゃなくて仲間を増やすために噛みむっていう説があるらしいわよ」

「それ、今言うことか?」

 相棒が馬鹿な事を言い始めた。

 無理もない。

 今まさに、そのゾンビに建物を囲まれているのだから。


「もちろん必要なこと。敵を知ればーってよく言うでしょ」

「じゃあ自分の事も知らなきゃな…。弾は残ってるか?」

「無いわ」

「クソッタレ」

 万事休すだ。


「私、思ったの。なんで仲間増やしたいんだろうって」

「何が言いたい」

 思わず相棒の顔を見る。

「もしかしたら淋しいんじゃないかしら」

「あれだけいるのにか」

 俺は窓の外を見る。

 見渡す限りゾンビばかりだ。


「逆に、そう逆にあれだけいるからこそ、一人だと思ってしまうのよ。あなたも経験ないかしら」

 そう言われて、考えてみる。

「まあ心当たりはある。知らない町の雑踏で急に一人であることを意識する、というやつか」

「そんな感じ」

「なるほど、興味深い。こんな状況でなかったらもっと聞きたいよ」

 そう俺達に残された時間は少ない。


「だがどうする?俺達にアイツラの孤独を癒せってか」

「それはもちろん彼ら自身に解決してもらうわ」

「何か策はあるのか?」

「ええ、互いに互いを認識してもらうの」

「どうやって?」

「任せて」


◆  ◇  ◆



 俺達は扉をタイミングよく開けて数体のゾンビを建物の中にいれる。

 入ってきたのを確認して、俺達は奥へ逃げる。

 ゾンビは疑うこともなく、逃げる俺達を追ってきた。

 だが俺達はゾンビを迎えうつ仕掛けを用意していた。


 所定の位置に同時にいないと開かない扉など、力を合わせないと進めない仕掛けを何個も作ったのだ。


 初めは偶然で進めても、次第に仕掛けが難しくなっていく。

 途中から進歩が悪くなり、これは駄目かと思い始めた。

 だが次第に彼らはお互いを意識するようになり、難しい仕掛けを難なく突破していく。

 そうして彼らはゴールへたどり着き、建物の外へと出た(一方通行)。


 だか外へと出たゾンビたちは、再び建物に侵入しようとはしなかった。


 当然だ。

 彼らは自らが一番欲しかったものを手に入れたのだ。

 彼らは手に入れた仲間たちとともにどこかへ去っていった。



「成功ね」

「そうだな」

 本当に成功するとは思わなかった。

 なるほど。これを繰り返せば、襲われなくなるだろう。

 だが。

「この見渡す限りのゾンビ、全部やるのか…」

「やるしか無いのよ」

「まじかよ」

「てことで、あの仕掛け改良しようか。

 無駄が多いし、効率化を図りましょう。

 さあ、ゾンビが私達を待ってるわ」

 相棒は楽しげに歩いていく。

「働くのは俺なんだがな」

 俺はこれから行う労働にウンザリする


 大きなため息がこぼれる。

 俺は仲間にするやつを間違えたかもしれない

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