ありがとう、ごめんね 2023/12/08

 ありがとう、ごめんね。

 私は心の中で、彼に詫びる。

 私は、スパイだ。

 彼の勤める会社の機密情報を得るため、彼に近づいた。


 いつもの仕事。

 用が済めばバイバイ。

 そのはずだった。


 でも彼は私にとても良くしてくれた。

 初めはシメシメと思ったものだが、次第に罪悪感がめばえてきた。

 今では彼への申し訳無さでいっぱいだ。


 何故そんなに良くしてくれるのか、一度聞いたことがある。

「僕が、そうしたいだけだよ」

 それしか言わなかった。

 私は良心の呵責で心が押しつぶされそうだった。


 でもその関係も今日で終わり。

 これから彼に全てを話す。


 会う約束をしたレストランで待っていると、時間通りに彼はやってきた。

 そして私は告白する。

 自分がスパイであると…


 それを聞いた彼は驚いた顔をして、少し悩んだあと私に微笑んだ。

「話してくれてありがとう、でもごめんね。

 実は君にどうしても言えなかった秘密があるんだ」


 私は驚いた。

 まだ私の知らない情報があったとは。


「実は君と会う少し前に会社をクビになってね。

 君に話した情報は全部ウソなんだ。

 本当にごめんね」

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