EX9 それぞれの行方②
とある魔術式映像記録。
「クソがっ!!」
王国のとある一室。そこに天上院天下とその他はいた。
この部屋自体も綺麗で清潔なことに変わりないのだが、当初明け渡されていた部屋とは明らかに装飾のグレードが数段落ちていた。まぁそういうことだ。
「クソクソクソクソクソクソがっ!!!!!!」
「お、落ち着け天上院よぉ」
見ていられなくなったのか、ガサツそうな男が止めに入るが火に油を注ぐだけだった。
それはもう本当に酷い有様で、取り巻きの女子すら近づかないぐらいの荒れ具合だ。
「これが落ち着いていられるかっ!? 真の勇者たるこの僕を差し置いてあのクソ陰キャは聖剣を所持していやがるっ。それに加え今度はあの頭のゆるそうなクソ女だ! どいつも僕を馬鹿にしやがってぇ!!」
その傲慢かつ自意識過剰過ぎるところなんじゃないかなぁ、とここに存在する面々は思ったが口にしなかった。だって確実に面倒なことになりそうだし。
ガシャンッ
そんな中部屋に流れる重ったるい沈黙を切り捨てるように金属音がかち鳴った。
いつの間にか現れた鎧騎士。部屋のドアが開いた気配はなく、面々は彼?に怪訝な視線を向けた。
鎧騎士は顔含め全身を鎧で覆っており、中の人物はもちろん表情すら読み取れない出立だった。そんなところも含め、とにかく異様な雰囲気を放っていた。
「な、なんだよお前っ」
「……」
天上院の言葉に鎧騎士は何の反応も返さない。
「なんだよこの木偶の坊はさぁ!! 突っ立ってる暇があるなら、いいからこの真の勇者たる僕に聖剣を持って来いよ使えねぇなぁ!!!」
天上院は苛立ちをぶちまけるように鎧騎士の脛部分を蹴り上げた。
対して鎧騎士はそれでも何の反応も示さない。それはまるで言外に天上院天下が取るに足らない存在と言っているようでもあった。
それがまた天上院天下のちっぽけなプライドを傷つけ更に逆上させるが、鎧騎士はものともしない。
そしてたっぷりと時間を消費し静寂を破った鎧騎士はおもむろに天上院天下の頭に手を伸ばした。
「……」
「へ?」
ブツン
大変残念なことに映像はここでブツ切りにされている。何の意図があってこの先の映像が削除されたのかは知らないが、その後彼らの消息を知る者はいなかった。
◆
王国某所。
深い深い闇の底。
誰もいないはずの空間に一つの人影があった。ていうかこいつ異様にずんぐりむっくりしてんな。
ここは王国の中でも特に厳重に秘匿された場所であり、あの聖剣ですら噂程度にしか見知らない場所だ。
だからここに人間がいるとしたら、それは王国でも中枢に存在する人物に他ならない。
しかし、しかしだ。
このデ、げふんげふん。この大層ふくよかな体躯を誇る人物の衣服は王国服装の特徴は一切存在しない。お忍び的な服装というか、そもそもこの世界全体に存在する衣服の特徴と合致するかも怪しい。
そして一筋の光すら届かない深淵で二つの双眸に鋭い光が灯った。
「デュフフッ!!」
◆
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