第70話 終わりの始まり


「いやいやそんなことはないぞ勇者よ。流石の妾も堪えたわ。ま、ほんの少しだけじゃがな」


 現状、考えうる最大火力をぶちかましたのにも関わらず、魔王は全くもって無傷だった。かすり傷すらありゃしない。まじふざけろよって感じ。


 しかし魔王の発言は決して強がりや虚勢の類ではないだろう。純然たる事実としてその程度の損傷ダメージしか与えられなかったのだ。


 流石魔王。そう簡単に異世界転移完にはしてはくれないみたいだ。


『ま、まぁ、いくらあの特異点魔王でもこっちには聖剣ちゃんがいるわけだしどうとでもなるでしょっ』


 そうだ。魔剣ちゃんの言う通りこちらには聖剣ちゃんがいる。この世界において水戸黄門の印籠ばりの影響を及ぼす聖剣ちゃんがだ。

 魔王など恐るるに足らず。泥仕合必須ではあるが負けはないのだ。


 バチッ バチッ バチッ バチッ バチッ


 しかしそんな俺達の心境をあざ笑うかの如く、まるで大気が悲鳴をあげるように。魔王がその手に持つ大槌からは言葉にし難い異様な雰囲気が噴き出し始めた。


「な、なんだそれはっ」


 それがあまりにも異様な光景に思えて、俺の声は無意識に上ずってしまった。


「しかし残念だのぅ。お主はつい先日聖剣を手にしたばかりじゃが、ワシはこいつを数十年と扱っておる。刮目するがよいっ!!」


 カシュッ カシュッ カシュッ ガシャンッッッ


 魔王の意志に呼応するかのように、突如として大槌が変形し始めた。

 形状に大きい変化はない。ほんの少しだけその身を拡張した程度だ。しかしその変形により緋色に輝く内部機構が露になった。


「――限界超越――」


 おかしい。

 そもそも聖剣ちゃんの魔力拡散性能によりもう魔力を発することすら出来ないはずだ。本来であればその大槌はいくら魔力を注いだところでピクリとも反応を示さないはずなのだ。


 そのはず。そのはずなのに。なんなんだその大槌から感じるまるで地獄の底から吹き上がるような歪な魔力渦は。


 しかしなんだ、こん状況にも関わらずその鎚身を走る緋色の魔力ラインは見惚れてしまうほど綺麗だった。


 ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


「年季の違いという奴じゃな。七つの終末機構こやつらにはまだ先がある」


「んな馬鹿なッ」


 まるで枯れ果てた木の葉のように。分離した聖剣ちゃん達の一部が大槌からハラリハラリと落ちていった。


「――行くぞ勇者よ」


 それはとても綺麗な緋に染まった大槌だった。

 魔剣ちゃんのようにその刀身を拡大させるわけでもない。されど大きさは変わらずとも圧倒的な存在感を放っていた。文字通り次元が違う、そう思えるほどのものだった。


 不味い拙いマズイ。


 こんなことを思考している間にも魔王は次のアクションに行動を移している。あの過剰過ぎるほど異様な様相を示す大槌が勢い良く振り下ろされようとしている。

 とにかく、とにかく身体を動かさねば。


 しかし思いとは裏腹に。あまりにも圧倒的な力の差に威圧されてか体が思うように動いてはくれない。


「さらばじゃ」


 勢い良く振り下ろされる緋色に輝く大槌。

 絶望する体を強引に稼働させ、魔剣で受け止めるが拮抗できた時間は一瞬にも満たなかった。


 パリンッ


 あまりにもか弱く間抜けた音。魔剣が纏っていた魔力は硝子細工のように簡単に砕けた。


 あぁちくしょう。本当にちくしょうが。


 聖剣ちゃんの魔力拡散性能が通じない以上、大槌の一撃を防ぐ手段はまるで皆無だ。


 ズガンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ


 魔王の大槌の一撃は凄まじいの一言に尽きた。

 その余波も凄まじく俺の体を突き抜け大地すら容易に砕いた。


 激痛で脳内が埋め尽くされる中、視界の端に見える崩落していく大地。辛うじてアリスがその範囲外にいることを確認出来た。

 そして誠に残念ながら、ここで俺の意識は暗転した。







 ◆


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