第67話 疑似楽園再現


『さぁ反撃開始と洒落込みましょうかっ!!』


 いつの間にか俺の周りを囲むように吹き荒れる極光は収まっていた。

 そして鎧と化した聖剣ちゃんが魔王ヴォーティガン・ウェルシュルクに対し勢い良く啖呵を切った。


「クカッ、クカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!」


 対して魔王はこの状況にも関わらずこれまた愉快そうに嗤った。


「いいぞ! いいぞいいぞ! 今代の勇者は掘り出し物じゃっ!!」


 魔王は興奮を隠さないままに頬を上気させた

 もはや俺には魔力を介する一切合切が通じない状況であり、彼女にとって絶体絶命と言っても差し支えないはずだ。

 しかしそこに演技や虚勢は見受けられない。長年恋焦がれた瞬間にようやく立ち会えた、そんな心の底からの歓喜にすら思えたほどだ。


「まさかあの聖剣を真名開放まで至らせるとはなっ!! これは歴史上、類をみないほどの偉業に値するのじゃ!!」


 魔王はやはりどこまでもその興奮を隠せずにいた。


「そうなの?」


『えぇまぁそんなところです。つまり私の処女初めてを奪ったのはマスターとなります☆』


「おいこら言い方言い方」


 後なんかフリガナというか当て字おかしくない?


「クカカ!!! しかしまぁ改めてそいつは単純ながら随分と凶悪な発想じゃなぁ!!」


 うんまぁそれは俺も正直そう思う。


 包み隠さず言えば『自分は傷つきたくないけど、相手はタコ殴りにしたい』とかいうあまりにも浅く、そして器の矮小さを露呈させる形態なのだ。人の浅ましさが良く分かるぜ。


『そこで人類一括りにしようとする辺りほんとマスターって感じですよね』


「うるさいうるさいうるさいやい! だいたいお前はいつも一言余計なんだよ!」


「クカカッ随分と余裕そうじゃな! その自信が虚勢やまやかしでないか、この第九天魔王が直々に試してやろう!!」


 魔王は勢い良くその右手を天に掲げた。

 そして依然として魔王の七つの終末機構セブンスアポカリプスが精製した百を超えるであろう大槌は宙に蠢いているのだ。


「うっ、気を失っていたみたいね……み、明星君っ!?」


 いつの間にか意識を取り戻したアリスが悲鳴を上げるように俺の名前を叫んだ。


「あぁ無事だったのか良かった良かった。まぁ一ノ瀬、安心してよ。今の俺達、超強いから」


『ですっ☆』


「口だけで世界が動けば世話ないのじゃ。これを乗り越え己が価値を証明して見せよ!!」


 魔王が掲げた右手を勢い良く振り下ろした。

 その一つ一つが明確な殺意を持ち、殺到する百もの大槌。


 塵すら残らないであろう確殺の超連撃。


「っ!?」


 迫り来る大槌の大群を目の辺りにして、アリスが声にすらならない悲鳴を上げた。

 まぁこれが普通の反応だろう。

 普通なら尻餅ついて失禁ものだ。ついでに大きいのも垂れ流すレベル。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッ


 まるで絨毯爆撃と思わんばかりの耳をつんざく轟音。その後、盛大に土煙が舞った。


「明星君ッ……!?」


 一拍。

 徐々に土煙が薄くなり視界が晴れていく。一ノ瀬の輪郭をぼんやりと視界に捉えたところで、俺は俺史上全力全開のドヤ顔をかましてやった。


「そんな心配そうな声をあげるなよ一ノ瀬。だから言ったでしょ、今の俺達は超強いってさ」


 現代重火器ですら比にすらもならない超超超絶火力。しかしそれをもろに受けたはずの俺達は依然として無傷だった。





 ◆


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