第65話 聖剣問答
「では
何故か。魔王に聖剣を持ち去られようとする最中、無意識に俺は聖剣を握っていた。
何故だろうか。
俺はこの厄介極まりない聖剣を手放したくて堪らなかったはずだ。
コイツのせいで余計なことに巻き込まれた。陰キャとして世界の端で細々と過ごすはずだっのに無理矢理ステージの上に放り込まれた。
だからこれは俺にとって絶好の機会のはずなのだ。
「分かっているっ! それでも、それでも僕はっ!!」
「煩いのじゃ」
ゴッ
魔王は煩わしいと言わんばかりに問答無用でその拳を振り下ろした。
情けないことに素のステータスでも魔王とは比較にならないほど差があるらしく、俺は自分の意識が遠退いていくのを感じた。
◆
気がつけば俺がいたのは、薄暗い光が微かにあるだけの真っ黒い空間だった。
目の前の暗闇を脇目をふらず進む影が一つ。
聖剣ちゃんだ。何故か剣体ではない人体だけど。
『……マスター?』
彼女は俺の気配に気がついたらしく、その歩みを止め後ろに振り向いた。
「やぁ」
『やぁじゃないんですけど。マスターってほんとマスターですよね』
「はいはい。それでここは?」
魔王にぶん殴られて意識が遠退いたと思ったら、次の瞬間にはこの謎空間だ。意味不明にもほどがある。
『精神と時の狭間です。まーマスターがあんまりにも激しくするから意識が混線しちゃったんでしょうね』
「如何わしい言い方すんなよ」
こんな状況にも関わらず、相も変わらずの通常運転である。
『しかし驚きましたよ。まさかあのマスターがあんなことを言うなんて』
あーまぁなんといいますかね。
若気の至りというか勢い勝ってブレーキの壊れたダンプカーといいますかね。とにかくまぁそういうことだ。
クソもう忘れたい。具体的には一週間ぐらい布団に籠って記憶を抹消したいレベル。
聖剣ちゃんはそんな俺を見るとだいたい察したらしく、どこか安心したように苦笑した。なんだよその感じ。ちょっと反応に困るじゃんか。
そして何を思ったのか。彼女は軽く咳払いをして真っ直ぐと俺の瞳を見据えた。
『……ねぇマスター。私のことを心の底から信じてくれますか?』
「唐突だな。全てのことはろくに話してくれないのに?」
『変なところで相変わらず勘が良いですねぇ。だからモテないんですよ』
うるせぇ。
このクソ聖剣が何かを隠していることは明白だった。
そりゃ分かるさ。
聞かれない限り肝心なことは決して言わないからな。
そしてなによりこの聖剣、俺を何かに誘導している伏があった。
もちろん確証はない。
しかしわざわざ魔剣ちゃんを手に入れるように導いたり、急ぐかのように絶対龍種と戦わせて戦力補強をさせた。アリスへのスパルタ教育もその一貫だろう。
『えぇ。えぇ、それでもです。私はまだマスターに話していないことが沢山あります。そしてそれはこの先もまだまだ話すことは出来ないのです』
『それでも……それでも私を信じてくれますか?』
常識で考えれば有り得ない。全くもって信頼にも信用にも値しないだろう。
しかし、しかしだ。脳に過るのは彼女との他愛もない会話だった。
聖剣ちゃんの突拍子もない発言に俺がツッコんで、またクソみたいな戯言ではぐらかす。そんな関係が心地良く感じる自分がいたのは残念ながら否めない。
そう。
俺は楽しかった。楽しかったのだ。
他愛もないやり取りが、クソみたいに仕様もない会話が。
どうしようもなく楽しかったのだ。
「俺は――」
その感情は俺にとって答え足りうるものだった。
なら。なら俺の返事は最初から当然決まっているね。
◆
再び意識は現実へと戻った。
状況は依然として最悪で絶体絶命だ。
「む? なにやら聖剣の様子が……むお!?」
しかし何が起きたのやら。聖剣が辺りを埋め尽くすほど眩い極光を放ち始めた。
『仮契約解除。承認承認承認。明星影人を正式契約者として承認』
『七つの終末機構――真名解放:エクスカリバー』
◆
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