第64話 いきなり魔王戦《クライマックス》⑥
「クカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!!!!!!」
なにがそこまで愉しいのか。唖然とする俺を魔王ヴォーティガンは見下し脇目も振らず盛大に哄笑した。
俺の精神支柱をへし折るべく、宙に浮くのは百を超える大槌。
これらは七つの終末機構である大槌の魔力拡張性能により生成されたものだ。
脳でいくら否定しようとしても一目で理解させられてしまう圧倒的な戦力差。
「んな馬鹿な……」
そうぼやきたくもなるもんだ。あまりも本当にあまりにも戦力差があり過ぎた。
俺は呆然として地面に膝をついた。
肌で感じるどころか
「クカカッようやく妾の偉大さを理解したか。いいぞいいぞ物分かりの良い奴は大好物じゃ」
俺の心境とは正反対に魔王はどこまでも上機嫌だ。
「ちとお主の中を覗かせてもらうぞ」
ゆっくりと此方に接近してきた魔王は俺の頭をおもむろに鷲掴みした。
!?
なんだこの感覚。脳内に鉄棒を捻じ込みぐちゃぐちゃにかき混ぜた後、更に強引に抉じ開けるような感覚だ。
やめろ。やめろ見るな。俺の、僕の中に入ってくるな。
「ふむ。自らの宿痾に立ち向かわず怠惰に過ごし一心に自らの終わりを願うか――論外じゃな」
魔王は手を離し、期待外れと言わんばかりに盛大に深いため息を吐いた。
「マーリンの奴もこんな奴に虎の子の聖剣をあてがうなど。少しア奴を買いかぶりすぎかの?」
彼女の俺を射抜く眼はどこまでも冷酷さを醸し出している。
それはもはや用済みであり、まるで屠殺寸前の家畜を見るかのようだった。
実際、彼女はここで俺を処分するつもりなのだろう。その眼を見るだけで言われずともそのことが理解できた。
『待って下さい。取引しましょう第九天魔王ヴォーティガン』
しかし突如として一度見たことある金色が視界を覆った。
気がつけば人型に変化した聖剣ちゃんが俺を庇うように両手を広げ前に飛び出していた。
「おおお主、聖剣か。クカカッ、こりゃまた随分と面こいのぅ」
『単刀直入に言います。マスターを見逃してくれませんか?』
『聖剣ちゃん……?』
魔剣ちゃんが声を上げた。
魔剣ちゃんの言う通りだ。いきなり何言っているんだお前。
『ふむ、見返りは?』
『私そのものです。
『クカカッそいつを殺してお主を奪うのも一興だが、あえて聖剣の心証を損ねることもないか』
『交渉成立とみていいですか?』
「クカカッ良かろう! お主のような存在が何故この塵にそこまでご執心なのは疑問だが、妾は寛大な魔王じゃからなっ!!」
話がついたのか、聖剣ちゃんは振り向き此方へと真っ直ぐに視線を向けた。
『さよならマイマスター』
その表情は今にでも泣きそうなぐらいで。
なんだよ。なんだよその表情はよ。ぜんせんらしくないし、『ろくでなしのマスターから解放されてせいせいします』ぐらい言ってくれよ。
『マスター! こんなので! これでいいの!?』
「……」
魔剣ちゃんがすがるように悲鳴を上げた。
対して俺はまるで言葉を出せなかった。
何か言おうにも俺はここで何を言う必要があるのか、何を言うべきなのか。
首から上についている生体部品がまるで飾り物かのように。何一つ脳内に言葉が一文字足りとも浮かばなかった。
「さて、そのままじゃ色々と不便じゃかならな。剣体に戻ってもらおうかの」
『はい……』
言われるがままに人間体から剣体に戻る聖剣ちゃん。
『マスター……』
分かっている。分かっているさ魔剣ちゃん。
でも現状俺達が生き残るにはこれしか手段がない。
これ以上なく合理的だ。言い訳できないレベルで一部の隙すらないほどの完璧具合だ。
それでも。それでも俺を突き動かす何かがあった。
「む、なんじゃ。その手を離すがよい。
「……さない」
何かを考えたわけでもないし、打算もクソもない。
ただ俺は気がつけば無意識で叫んでいた。
「聖剣ちゃんはっ! 渡さないっ!!」
あれだけ鬱陶しいと感じていたはずなのに。あれだけ早々に手放したいと思っていたはずなのに。何故だか俺はそんなことを口走っていた。
◆
【作者からのお願い】
ここまで読んで頂きありがとうございます!
よかったら作品フォローと、☆☆☆を三回押してもらえると嬉しいです!(三回じゃなくても大歓迎です)
下記URLからでも飛べます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます