第63話 いきなり魔王戦《クライマックス》⑤
「では改めて死ねぃ!!!」
迫り来る魔王から放たれた三本の大槌。その一つ一つが確実に俺を瀕死の底に叩き落とすことだろう。
『『マスター!!』』
聖剣ちゃんと魔剣ちゃんが悲鳴上げるように叫んだ。
うん分かっている。言われなくても分かっているさ。
状況はあまりにも絶望的。火葬後の心臓マッサージレベルで終わりかけている。されどやるしかないのも確かだ。
後ろには気絶したアリスもいるわけでして。一縷の望みを抱き尻尾を巻いて逃げるのもやぶさかではないが、それでは些か夢見が悪い。それにほらアリスがR18的な目に遭うのも嫌だし。
『マスターも中々に面倒臭いですねぇ』
『うんうん、それね~ほんとざこ♡ざこ♡』
ほっとけ。
喧しい奴らを無視し、改めて大槌を睨みつける。
今はとにかくやるしかない。やれ。逃げるな。覚悟を決めろ。
大槌は同時に放たれたように見えて、キチンと波状攻撃になるようタイミングをずらしている。聖剣の魔力拡散能力の餌食にならないためだろう。
上手くやるんだ。
聖剣の魔力拡散性能。この絶対的かつ圧倒的なアドバンテージを利用すること以外に生き残れる道は存在しない。
「行くよ聖剣ちゃん」
影魔術で魔剣ちゃんを腰辺りに固定し、聖剣ちゃんを両手持ちに変える。
俺は意を決し弧を描くことを意識しつつ、聖剣を振りかぶった。
一本目
大槌は聖剣と交差し霧散した。
二本目
運よく弧を描くように振り払われた聖剣にカチ合いこれも拍子抜けするように霧散した。
三本目
そのままの勢いで行けるかとも思ったがそうは問屋が卸さない。最後の大槌と聖剣が勢い良く交差するまでは良かったが、敢無く聖剣が弾かれた。
大槌の魔力は消し飛ばしているのにこの有様だ。
先にぶつかった大槌達に勢いを削がされたか、そもそもの地力の差か。その両方だろう。
このままでは結果を見るまでもなくお陀仏だ。
だが俺には聖剣ちゃんだけではなく魔剣ちゃんがいる。メスガキだけど。
「魔剣ちゃん!」
『うん!!』
影魔術で魔剣を掴み、そのまま迫り来る大槌を受け止めた。
「ほう、中々に器用な奴じゃ。だが甘いな」
ドゴンッッッ
一瞬、息が止まった。腹部に衝撃が走ったと思えば頭が真っ白になり、目頭が狂ったように
続けて状況把握する間もなく、逃れられない激痛が上ってきた。
「ぐううううう!!!!!」
『『マスター!?』』
なんだこれ死ぬほど痛ぇ。
なんだ、一体全体何が起きた。まるで胴体に巨大な風穴が空いたみたいだ。痛みに堪えおそるおそる触れてみると身体欠損はないらしく幾ばくか安堵した。
とにかく痛すぎて痛いが、今はそれどころじゃない。
それよりも気にすべき事がある。俺は三本の大槌をギリギリのところではあるが確かに凌いだはずだ。それなのに何故?
答えには簡単に辿り着いた。
「クソ、四本目か」
「そうじゃ。そもそも妾がいつ三本までしか顕現させられぬと言った?」
クソが。そりゃそうだ。ええそうでしょうそうでしょう、三本作れるなら四本目も楽勝でしょうよ。
俺の見通しがこの上なく甘かったのだ。
それでもまだ俺は五体満足だ。全てに絶望し投げ出す段階ではない。
「ふぅむ、まだ諦めんか。圧倒的な戦力差を見せつけたつもりだったが、手緩かったようじゃな」
ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
「クヒッ」
魔王はまるで此方に魅せつけるようにニヒルな笑みを浮かべた。
彼女の異様な雰囲気に呼応したかのように大地が揺れ、空が鳴動した。
「クカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!!!!!!」
なにがそこまで愉しいのか。唖然とする俺を魔王ヴォーティガンは見下し脇目も振らず盛大に哄笑した。
そしてこれは全くもって信じられないというか、理解するのを脳が拒絶しているというか。宙には軽く百を超えるであろう大槌が懇切丁寧に俺の心の芯を叩き潰すかのように浮かんでいるのだった。
◆
【作者からのお願い】
ここまで読んで頂きありがとうございます!
よかったら作品フォローと、☆☆☆を三回押してもらえると嬉しいです!(三回じゃなくても大歓迎です)
下記URLからでも飛べます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます