第57話 大魔王からは! 逃れられない! のじゃ!①

 赤。


 緋。


 憤怒あか


 それは目を引いては離さない感情いろだった。まるでその身を焼き尽くすような。それでいてなおも嗤いながら前に進む。そんな深紅あかだった。


「我が名は第九天魔王ヴォーティガン・ウェルシュルク――愉快な気配を感知したので気になって来てみれば。ククク、随分とまぁ面白い状況になっているじゃあないか」


 真紅の瞳に、燃え焦がすような真紅長髪。

 そしてそいつは端的に表現すれば幼女だった。しかし、その幼女離れした佇まいや物言い。何より背中に携えたその身の丈を越えるほどの大槌が俺の頭を混乱させた。


 普段であれば揚げ足を取り茶化すところだろう。

 魔王なのに幼女て。しかものじゃロリて。正直、ツッコミたいけど。滅茶苦茶ツッコミたいけど!

 しかし俺の心境はそれどころではなかった。あまりにも強大かつ苛烈にすら感じる圧倒的な威圧。紛れもなく純然たる魔王。そう思わせる何かが彼女にはあった。


「……」


 言葉はない。その代わりに今この場に存在する意識ある全員が思わず息を呑んだ。そんな中、魔王ヴォーティガンは気分上々と言わんばかりに滔々と語る。


「ククク、聖剣を所持しているということは貴様が今代の勇者か。しかも魔剣も魔導本もおるのか。随分とまぁ壮観な光景じゃ。見る人が見れば卒倒ものじゃぞ」


「……うすうす感じてはいたけど、聖剣ちゃん達ってそんなヤバい武器なの?」


「おん?」


 魔王ヴォーティガンは俺の言葉に目をパチクリさせると、


「クハ、クハハ、クハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


 次の瞬間、盛大に嗤った。


 そして一拍。


「――七つの終末機構セブンスアポカリプス


 魔王ヴォーティガンはハッキリとそう告げた。


「貴様、そんなことも知らずにこれを扱っているとはとんだ笑い草じゃな。いいか? これらはな、七ついや正確には六つか。の尽くを滅ぼした、げに恐ろしき殲滅兵器よ」


 まるで。まるで思考が追い付かなかった。

 いきなり魔王が現れて、聖剣ちゃん達は七つのなんちゃらとかいう厨二感溢れるヤベー殲滅兵器だった?


 なんじゃそら。まじでなんじゃそら。

 こっそりと横に視線をずらすとアリスもまた苦虫を嚙み潰したような表情をしており似たような状況だった。しかも聖剣ちゃん達は弁明をするわけでもなく一切と言葉を発しない。まるで意味不明だった。


 そんな中、この空気をまるで読まない阿呆がいた。


「ふ、ふざけるな! さっきから黙って聞いていれば好き放題に! この僕がまだ聖剣を手にしていないのに魔王だと!? ふざけているのにもほどがある!!」


「ブヒッ。そ、そうですぞ! 魔王があのような童女であるわけがない! は、ハッタリに決まっていますぞ!!」


 陽キャイケメンである天上院天下とエロ豚司教こと女神正教の大司教だ。彼らはこの一触即発の状況の中、あまりにも幼稚かつ稚拙な悲鳴を上げた。


 あ、コイツらまだいたんだ。


「これだから身の程を弁えない奴は困り種じゃのぅ」


 これに対し魔王ヴォーティガンは心底呆れたように溜息を一つ。


「――う る さ い――」


 そしてたった一言だけ述べた。


「うぐっ」


 ただの言葉ではない。質量を持った言の葉と表現すべきだろうか。その言葉が大気を介して耳に侵入した瞬間、胃の底を上から圧し潰すような感覚に陥った。


 これにはたまらず俺は歪め、アリスは額を抑えた。


 バタリ。


 そして陽キャイケメンとエロ豚司教はまるで漫画のように泡を吹いて気絶してしまった。まじか、手も使わず威圧のみで気絶させやがった。覇気かよ。というか俺も少し危なかったんですけど。


 やべぇ。スケールが違い過ぎる。あまりにも違い過ぎる。

 頭でどれだけ否定しても肌から来る感覚で分からされてしまう。コイツは。彼女は見た目こそ幼女だが、やはり純然たる魔王なのだ。


『……マスター今すぐ逃げてください』


「へ?」


『特異点:魔王ヴォーティガン。噂には聞いていましたがこれほどとは……と、とにかく今は脇目も振らず一目散に逃げてください!!』


 ようやく沈黙を破った聖剣ちゃんの声音は、まるでカタカタと怯える子犬のようだった。


 あの傍若無人を着て歩くような聖剣ちゃんにここまで言わさせるとか、これは尋常ではない事態だ。そう危機を感じ、俺はすぐさま聖剣に手をかけようとするが、


「――平 伏 せ よ――」


「ぐぅっ」


 魔王が短く言葉を発すると凄まじい重圧が上から襲ってきた。

 不拙い。膝こそつかなったが、これでは逃げられそうもない。


「おいおい、折角逢瀬できたのにすぐ逃走とか興ざめなことはやめてほしいのじゃが。それにお主らの世界ではこういうのであろう? 大魔王からは逃げられない! のじゃ!!」


 そして彼女は俺達に懇切丁寧に絶望を叩き込むように獰猛な笑みを浮かべるのだった。






 ◆


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