第56話 聖剣ちゃんは空気を読まない③



「アハハハハ!!! 今更謝っても遅いぞ! 所詮はお前等なんてこの聖剣の鞘さえあれば塵カス同然なんだよぉ!!」


 陽キャイケメンもとい天上院天下は仄かに光を放つ聖剣の鞘を掲げ高らかに嗤った。まるで親に買ってもらった最新ゲームを自慢げに見せびらかすクソガキだ。

 悲しきかな。アレ、一応クラスメイトなんだよな。


「ちょいちょいちょい。これちょっとヤバいんじゃないの。そこんとこどうなの聖剣ちゃん?」


 とはいえアレの発言が真実であれば由々しき事態だ。もし聖剣を封じることが出来るなら、魔剣にもその可能性がないとは断言は出来ないのだ。下手したら魔導本だってそうだ。


『あーまぁ多分大丈夫なんじゃないんですかね?』


「なんで他人事なのかしら……」


 しかし当の聖剣ちゃんは特に慌てる素振りすら見せなかった。そのあまりにもなテキトーさ具合に、アリスは呆れたように嘆息した。


『ちょっとちょっと! マスター達があんまりにも相手してくれないからあの人すごいことになってるんですけど!?』


「お、見物だな。あの小僧わなわなと震えてやがらぁ」


 魔剣ちゃんは慌てふためき、魔導本は煽るように嗤った。

 最近まさかの魔剣ちゃんが常識人枠を獲得しそうな雰囲気があることには苦言を呈したいところだが、今はそれどころではない。

 目の前の陽キャイケメン氏が爆発寸前だった。


「クソがあああ!! この僕を馬鹿にしやがって!! 目にもの見せてやるっ、"神聖拘束ディバイン"!!」


『へ? わわっ』


 聖剣ちゃんの刀身に魔術陣が浮かび上がった。


「ちょっ、これは流石に不味いんじゃないの!?」


 それは明らかに天上院天下陽キャイケメン氏が高らかに語った効果がありそうな魔法陣だった。


 しかし、しかしだ。現実は得てして理不尽になりがちだったりする。


『えい★』


「アハハハハ! 今更命乞いしたって遅いんだからな! アハハ……――は?」


 バキイイイイイイイイイイイイイイイイイン


 聖剣ちゃんの気の抜けるような声が耳に届いた次の瞬間――。

 まるで神聖な光に包まれたステンドグラスが盛大に砕け散るような音が耳をつんざいた。何が起きたかといえば、魔術陣が完膚なきまでに粉々に砕けたのだ。


「はい???」


 これには流石の陽キャイケメンも口をあんぐりと開け大層な間抜け面を晒した。

 その間抜け面たるや大変芸術的なもので、額に入れてリビングルームとかに飾りたいレベルだ。


 とはいえ状況に頭が追い付いていないのは俺やアリスも同じだった。一体全体どういうことだってばよ?


「聖剣ちゃんこれは一体全体どういう状況なの? そもそも暴走ってどういうことなのさ」


『あーまぁ私にもほんの少しばかり若気の至り的なサムシングがありまして。マスターの世界でもよく言うんでしょう、昔は悪かったとか』


 お前はどこぞの全然武勇伝じゃない武勇伝を誇らしげに語るヤンキーかよ。


『まー確かにあの鞘によって件の暴走が収まったのは本当なんですけどね?』


「え、じゃあやっぱりヤバいじゃん。むしろ天敵じゃん」


『いえそれがそんなことはないですよ。なんかヒンヤリして気持ちいいなー的な感じで収まっていただけなんで』


「そんな快適器具的な扱いなのね……」


 聖剣ちゃんのあんまりな言い様に、アリスがまた呆れたように嘆息した。


 しかし、まじかー。

 聖剣の鞘。名前だけ聞けば、さぞ歴史に名を刻んだであろう伝説の神具であることは想像するに容易い。それがまさかの便利器具エアコン扱いだからね。自信満々でこれを取り出した陽キャイケメン氏はいっそ哀れである。基本的には同情するなら金をくれと叫ぶ俺でも同情するレベル。


「そ、そんな馬鹿な……こ、これは夢だ。そうに違いない!」


 遂には陽キャイケメン氏は哀れにも現実逃避に走り始めた。なんかほんとドンマイ。うちの聖剣がなんかゴメン。


 しかし。しかしだ。そんな彼に追い打ちをかけるように容赦なく事態は急変していく。


 突然と、妙に響き渡る甲高い嗤い声が辺りを貫いた。


「――クククッ愉快な気配を感じたので来てみたが、随分と面白い状況になっているようじゃな」


 ギルド建屋の屋上からだ。そこには赤髪を風に靡かせ、背中にあまりにも不似合いな大槌を携えた幼女がいた。


 そして幼女は次にこう言葉を紡いだ。


「妾は魔王。第九天魔王ヴォ―ティガン・ウェルシュルクである!」









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