第58話 大魔王からは! 逃れられない! のじゃ!②

「お主らの世界ではこういうのであろう? 大魔王からは逃げられない! のじゃ!!」


 魔王ヴォーティガン・ウェルシュルクはそんな魔王的存在の由緒正しき名言を得意げに言い放った。


 冗談めかしく聞こえるがこの言葉は決してハッタリでも誇張でもない。

 彼女には実際それを実現させてしまうであろう雰囲気かつ威圧感が漂っていた。具体的に言えばマジヤベェ。


「はぁ……これやるしかない感じ?」


「そのようね。腹を括りなさい明星君」


 いきなりラスボスとかふざけてんのか。

 正直、尻尾を巻いて逃げ出したいところだが、眼前の魔王はそれを許してくれそうもない。やる気満々ってやつだ。


 それならばアリスの言う通り腹を括るしかなさそうだ。


「そんなわけで魔剣ちゃん達も後で色々としっぽりこってりと問いただすけど、今はそれどころじゃないから黙りこくるのやめなさいね」


『……うへぇ。魔剣ちゃん的に雑魚雑魚マスターのそういうところがモテない原因だと思うんですけど』


『聖剣ちゃんも右に同意~~~』


 うっさいぞ。まじうっさいぞ。


魔導本グリモア、貴方もよ」


『へいへい、アリス嬢の逆鱗に触れたくないしな。俺はキチンと後で説明してやるよ』


 アリスと魔導本がなんとも気楽そうな言葉を叩き合った。

 あっちはコミュニケーションが楽そうでいいなぁ。こっちは片や胡散臭くて、片やメスガキだからね。なんたる落差。クーリングオフ的なのを求めたいレベル。


『――ま、それもこれもこのクソッタレな状況を乗り越えられただけどな』


 俺がクリーングオフを真剣に検討していると、そう魔導本が言葉を締めた。


「おん? 最後になるかもしれぬ会話は済んだかの」


 どうやらわざわざ待っていてくれたらしい。案外、話の分かる魔王らしい。


「じゃあり合う前に、一つ聞きたいんだけどいい?」


『……マスター?』


 聖剣ちゃんが怪訝な声を上げた。なんというか相変わらず


 ずっと疑問があった。この世界の人間のそれを示唆する言葉を聞くたびにひっそりとそして確実に、その疑問は大きく膨れ上がっていった。

 魔王ともなればこの俺の中に燻る疑問の答えを知っている。そんな確信にも近い感覚があった。


「なんじゃ藪からスティックに。まぁ妾は魔王、しかも第九魔天じゃからな。下々の塵共にも寛大な態度を示さなければいかん。不遜極まりないが、その無礼許そう」


「藪からスティックって。まぁいいや、それじゃあお言葉に甘えて一つだけ」


 一拍。


「――女神って本当に実在するの?」


「おん? これはまた不可解な事を聞いてくるもんじゃ。お主らが持つ七つの終末機構セブンスアポカリプスが女神存在の有無の何よりの左証じゃろうて。なにせソイツ等はあの女神カスが地上に堕としたものじゃしな」


 七つの終末機構。

 どうにもこうにも、それは聖剣ちゃんや魔剣ちゃん達を示す言葉らしい。しかも六種族を滅ぼしたとか曰く付きにもほどがある感じ。


 しかし。しかしだ。今はそんなことはどうでもいい。


 女神なんていう人知を超越した存在の実在。聖剣ちゃん達の存在そのものが証明するその事実に、俺の心の臓奥深くに薄暗い焔が灯るのが分かった。


「……明星君?」


 なにやらアリスが俺を呼んだ気もするがそれも今はどうでもいい。


「――ククク、お主中々に面白そうな奴じゃな。お主、自分が今どんな表情をしているか理解しているのか? 決して勇者がしていい嗤い顔かおじゃないぞ」


 魔王が何やらまた愉快そうに嗤った。

 しかし俺にはそれすら、やはりどうでもよかった。








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