第43話 猫耳受付嬢

「いつの間にそんな魔術を習得していたのね」


 影の巨腕つまり影縛シャドーバインドで拘束されたゴロツキ共を尻目に、アリスが感心しつつも呆れたように呟いた。

 影魔術である影装甲シャドースーツ影縛シャドーバインド。そのどちらもアリスがレベルアップに勤しむ傍らに習得したものだ。


 そんな大それたことをしたわけでもなく、同じく影魔術である影刃シャドーエッジを何度か使用したところで習得した。どうやら熟練度タイプらしく影魔術を使い込めば混むほど強くなり新しい術を得れるみたいだ。テ〇ルズかな?


「まぁね。俺も色々とやっていたのです」


「抜け目がないと褒めるべきかしらね」


 いいぞいいぞもっと褒めてたもれ。実は俺褒めて伸びるタイプなんだな。陰キャは承認欲求の塊だからね。


『でもマスターまるでレベルが上がっていないじゃないですか』


 うぐっ。


『やーいやーい♡ まるで成長していないクソザコマスターださ♡ださ♡』


 聖剣ちゃんと魔剣ちゃんがわざわざ俺を罵倒するためだけにアイテムボックスから出てきた。勝手に。


『お前さんらは本当にやかましいなぁ。ま、小僧が軟弱なのは概ね同意だけどな』


 しまいには魔導本までもがアリスのローブの下から出てきた件について。


 なんだとこの野郎。こいつはこいつでやたらと俺に敵意マシマシな感じだ。覚悟しとけ?そのうちマジで燃やしてやるかんな。


 しかしそんな魔導本の散々な言い様がいたくウケたらしく、聖剣ちゃん達は愉快そうに笑い始めた。しかもアリスまでそれに混ざる始末だ。ひどくね?


 まぁでも正直悪くないとは思った。

 もちろん口が裂けてもそんなことは声に出せないが、日本にいた時の陰キャ生活にはない騒がしさだった。それは煩わしく感じつつも心地良いとすら思えるものだったのだ。


 だからだろう。

 だから俺は背後に近づく影にまったくもって気がつくことが出来なかった。


「――これまた随分と賑やかですニャァ」


 カツンッ


 整備された石畳をヒールが踏み抜く音が耳を貫いた。

 慌てて背後に振り向くと、そこにはなにやら何処かで見たような顔。冒険者ギルドの猫耳受付嬢がそこにはいた。

 不味いな。喋る武器を所持しているなんてバレたらろくな目に遭う予感しかしない。どこまで見られた?


「ニャニャ? 声からしてもっと人がいるかと思ったけど気のせいかニャ」


 良かった。一応バレていなかったみたいだ。


『マスター』


 しかしそんな状態にも拘わらず聖剣ちゃんは俺に話しかけてきた。一応小声なので気は使っているみたいだが。


「ちょいちょい聖剣ちゃん人前であんまり喋らないでよ怪しまれたらどうすんのさ」


『そんなことを言っている場合じゃないですよマスター。あれはです』


 その言葉を聞き俺は再び猫耳受付嬢へと視線を向けた。確かに聖剣ちゃんの言うとおり猫耳受付嬢は途轍もなく異様な雰囲気をまとっていた。そしてそれを更に際立たせるのがそのだ。


「こんな美少女を捕まえてひそひそ内緒話なんて寂しいニャァ」


「明星君、あの武器……」


「あぁ思いっきり日本刀だ。この世界にもあるんだな」


 猫耳受付嬢が腰からぶら下げた武器は明らかに見覚えのある武器だった。長く細い鞘に納められ、独特の反りを持つ刀身。明らかに日本刀だった。


「日本刀、日本刀ねぇ……その呼び方をする人間に会ったのは二人目だニャ。しかもこの世界とかいう表現も引っかかりますニャ」


 二人目?

 もしかしてクラスメイトの連中だろうか。いや俺の方が先にこの都市に来ているから時系列的にあり得ない。ということは俺達より先に異世界転移させられた人間が存在する?


「まぁ細かい話は後回しニャ。とにかくるニャ! んーでもいきなり殺し合いっても味気ないニャ。自己紹介ぐらいしておくかニャ。改めて、アタシは滅茶苦茶キュートなだけでどこにでもいる猫耳受付嬢ニャ」


 猫耳受付嬢は滔々と語り、そして恋をした乙女のような笑顔で腰にぶら下げた刀に手を伸ばした。


「アタシの名前はニャルメア・ナイトメア――いざ推して参るニャッ」







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