第42話 影魔術


『マスターは全然学習しませんねぇ』


 冒険者ギルドからそそくさと逃げ出すように飛び出したところで、聖剣ちゃんがアイテムボックスの中からそんな事をおほざきになった。


「うっそいぞ。てか公衆面前で声出して話すんじゃありません」


『ちぇーマスターのケチ~童貞~』


 おいコラ。童貞は関係ないだろ。童貞だけど。一分の隙もないぐらい童貞なんだけど!


 聖剣ちゃんはそんな捨て台詞を吐くとそれ以上は言葉を発してこなかった。普段もこれぐらい素直だといいだけどなぁ。


「だけれど彼女の言うことも一理あるわ。一応私達は逃亡中なわけだしあまり目立たないように気をつけるべきよ」


「ま、そりゃそうか」


 アリスの言う通りだった。

 この都市は俺達が異世界転移された王城からそれなりに離れてはいるが、どこに監視の目があるか分かったものではない。

 そして俺達は確かにレベルアップにより相当強くなったが、この世界に対する情報は不足したままだ。元の世界に帰るための手掛かりもまるで掴めていないのだから、彼女の言う通りなりを潜めるべきだろう。


「じゃあ情報集めもかねて異世界観光にでも洒落こもうか」


「もう調子がいいんだから。あまり目立たないようにね」


「分かってますよぅー」


 そんなわけでアリスと都市散策をすることになった。デートとかではないので悪しからず。ていうかそんな烏滸がましいことほざいたら彼女の絶対零度の視線で心肺停止されるまである。クワバラクワバラ。


 しかし、しかしだ。いくつか店を物色し少し歩いたところで、


「ん?」


「へへへ、おい兄ちゃん。ちょっと面かせやオラ」


 人相が悪くガタイの良いゴロツキ達が俺達を囲むように現れた。数にして三。


 これはまたテンプレ展開かなぁ。




 ◆




 ゴロツキ共に連れてこられたのはまったくもって人気のない裏路地だった。

 正直ほいほいと着いていくのはどうかと思うが、目立たないと決意した矢先だ。人目が多い所での騒ぎは起こしたくなかった。


「へへへ、ギルドにあれだけの大金を預けないなんて随分と不用心だよな。さてはお前等田舎でのお上りだな?」


「あぁそういう」


 なるほどギルドが金を預けるのを推奨していたのはこういう側面もあるからか。力のある冒険者ならいざ知らず、特に駆け出しの冒険者なんてこういう輩にとって格好のカモだ。


 しかしあの猫耳受付嬢、もしかしてこうなるって分かっていて誘導したのだろうか?

 だとしたら見た目に反してどうにも食えない奴だ。


「ゲヘへ、しかも連れの女は滅茶苦茶上玉だぜ」



「俺達で味見した後は変態貴族とかに高値で売れそうだぜぇ」


 うわぉ、これまたコッテコテのテンプレだぁ。ヤサイマシマシニンニクアブラカラメって感じ。


 しまいには腰まで振っちゃって。アリスさんはまるで汚物を見るかのような目しちゃってるよ。クワバラクワバラ。


「一ノ瀬は下がっていいよ」


「いいの?」


「君の魔術だと街中で使うには不向きでしょ。それにこういう場面で女の子を前に出すのは流石の俺でも憚られるんだよ」


「……そ、そう」


 アリスは意外そうな表情を浮かべた。ちょっとショック。女の子を盾にするタイプの男に見られていたのか。


 まぁ将来的にそうなるのもやぶさかではないが、とりあえず今ではないだろう。それに俺にだってほんの少し塵カス程度でしかないけれども、男の子の意地ってやつがある。ここは引けないね。


「ハッ! てめぇみたいなモヤシが一丁前に騎士気取りかよ。こりゃ現実の厳しさの教え甲斐があるなぁ!!」


「え、むしろお前らみたいな三文芝居のこれまた三下みたいな雑魚が俺をどうにか出来るわけないじゃん。鏡とか見たことある?」


 この返しには案の定ゴロツキ達は額にピキピキと青筋を浮かべた。この手の連中は行動が単純ゆえに扱い易くて助かる。

 まぁ日本にいた時はこういう連中に怯えながら過ごしていたわけなので、どの面下げて言ってんだって感じだけど。陰キャなのでしかないねっ。


「テメェ! ちょっと脅して金だけ掻っ払うつもりだったが、死に去らせや!!」


 激昂したゴロツキの一人が懐からナイフを取り出し、俺の腹部に叩き込んだ。


 しかしそのナイフが俺に突き刺さることはない。


「な、なんだぁ!? 鉄でも仕込んでやがったか!?」


「スキル:影装甲シャドースーツ。残念ながらその程度の攻撃は無意味なんだなこれが」


 俺を凶刃から守ったのはインナーのように薄く体を覆う影だ。

 影装甲は防御系スキル。羽のように軽くゴムのようにしなやか。そして鉄よりも固い。


 よし、これで刃物程度であれば防げることが実証出来た。どの程度の攻撃まで耐えれるのか、更に検証したいところだが、このゴロツキ達にそこまでの期待は出来そうもない。

 まぁ、それはおいおいでいいか。


「クソが! 全員でやっちまえ!!」


「舐めんじゃねーぞこのクソもやしがっ!!」


「野郎ぶっ殺してやるぅ!」


 今のである程度、力量の差が分かりそうなものだがそこはゴロツキ。舐められたら終わりの世界で引くという選択肢は存在しないのだ。あほくさ。


「はぁーもういいや面倒くさい。影縛シャドーバインド


 その言葉を起動音キーに影で構成された巨大ないくつもの腕が形成された。

 そして腕達はバーゲンセールに駆け込む主婦の如く、一斉にゴロツキへと駆け込んだ。


「うぉ!?」


「ママーーーーー!!」


「な、なにしやがんだテメェ! 離しやがれ!!」


「そんなこと言える立場でもないのに凄いや。まぁしばらくお仕置きってことでそのまんまね」


 おい一人なんかおかしいのいたぞ。


 それはさておき発動された影縛はゴロツキ達を縄のように拘束し、身動きの一つすら封じた。


 ゴロツキ達は全然反省している雰囲気がないのでそのまま放置することにした。

 そのうち魔力が尽きてこの魔術も解除されることだろうし、それまでは是非とも陰キャに負けたという屈辱を隅々まで味わってほしいね。





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