第44話 ニャルメア・ナイトメア
「アタシの名前はニャルメア・ナイトメア――いざ推して参るニャッ」
瞬間、ニャルメアの姿が消えた。そしていきなり目と鼻の先の距離に出現した。
「死ねニャ」
ギイイインッ
咄嗟に影魔術:影刃を発動させ、首筋目掛けて一直線に迫る刃を間一髪で受け止めた。
あ。あぶねぇ。一応、念のため咄嗟に
ニャルメアは刀を切り下がるように振り、その反動を利用して俺から距離をとった。
「アタシの初撃を受け切る奴なんて久しぶりニャ。これは中々楽しめそうだニャッ!」
ニャルメアはそう言いながら瞳を爛々と輝かせた。なんというか夏休みに半そで短パン格好で虫取り網を片手に駆け出す少年ばりの目の輝かせ方である。バーサーカーかよ。
「明星君っ!」
「一ノ瀬は下がってて!!」
今にも俺の方に駆け出そうとしていたアリスに手をかざして静止させた。
この相手は先程のゴロツキ達とはまるで違う。アリス自体の魔術能力は凄まじいものだが、如何せんニャルメアとの相性が悪い。そもそもまだレベルにも不安が残るし、彼女が光るのは一対大勢だ。
彼女には悪いが引き続きここは俺がやるしかない。非常に気が進まないことこの上ないがやるしかない。
「行くニャッ!」
「こっちくんな!
その言葉を
そして巨影腕達はニャルメアに殺到した。その勢いたるやアイドルの追っかけの如き凄まじいもので彼女の華奢な体など簡単にへし折ることが出来るだろう。
「ふ~んふふ~んふふ~」
しかしニャルメアどこ吹く風といった感じだ。まるで危機など感じていない。しかも鼻歌まで口ずさむ始末だ。
「うーん、こうも多いとしゃらくさいですニャ――三ノ太刀:黒死線」
次の瞬間、ニャルメアの刀が空間を縦横無尽に駆け回った。
計五連斬。
その刀より放たれた斬撃はまるで隈なく張り巡らされた蜘蛛の糸のようだった。
「へ……?」
そして
「さてさて次はこっちの番ニャ」
ニャルメアはそう言いつつも何故か刀を鞘に納めた。しかし戦闘を終了したという雰囲気でもない。むしろ逆。彼女は依然として刀の柄に手を掛けたままだ。
これは……居合か!
「覚悟するニャ。一にして奥義」
ニャルメアはその考えが正しかったと言わんばかりに、右手を刀の柄に添えて左手で鞘を掴んだ。そして足を肩幅程度に開いて前傾姿勢をとった――来る。
「一ノ太刀:
次の瞬間、ニャルメアは剛弓より放たれた矢のように俺目掛けて飛び出した。
しかし俺はそんな状況にも関わらず不可解な感覚に陥った。景色がとてもゆっくりなのだ。まるでスロー再生した映像のようだ。アリスやニャルメア、もちろん俺も。迫り来る抜刀された刀。その視界に映る全てがゆっくりと、そして確実に動いていた。刀が向かう先はもちろん俺の首。
これってもしかして走馬灯か……?
不味い。慌てて影刃を発動させるが、やはり遅い。直感的に理解した。これはニャルメアの刀が俺の首に到達するまでには間に合わない。
そうなると俺はもう天に身を任せるしかない。レベルアップにより向上した耐久性能と
南無三。
ギイイイイイイイッ
耳をつんざくような擦れ合う金属音。
恐る恐る首元に視線をずらすと、どういうわけか俺の首は無傷であり、刀が俺の首に到達していなかった。
「ははーんアタシのこの一撃を受け止めるとか、その剣は中々の業物と見たニャ」
理由は簡単。聖剣ちゃんが俺とニャルメアの間に滑り込んでくれたからだ。今回は素直に助かった。
「その剣はさっきまでアリスちゃんの近くにあったと記憶しているニャ。しかも誰の手も借りずにひとりでに、あたかも意志があるようにその剣は勝手に動いたニャ」
そんな奇奇怪怪な状況に恐れるわけでも驚くわけでもなく、ニャルメアはまた爛々と瞳を輝かせた。
「そんな武器は聞いたことがないニャ。仮に存在したとして神話級の武具――例えば聖剣とかニャ」
そして確信めいた口調でそう断言した。
まじか。色々とバレテーラ。
「その反応、半信半疑だったけどまさかカゲトが勇者だったとは驚いたニャ。勇者ってもっとキラキラしていると思っていたニャ!」
「うるせいやい。余計かつ巨大過ぎる御世話だっての」
なんだとこの野郎、陰キャが勇者していたらおかしいってか。陰キャだからか陰キャだからなのか。
もう色々諦めたけど俺だってなんで勇者しているか皆目見当もつかないよ。あ、でも王国から逃亡しているしもう勇者扱いじゃないのかな。なんか元勇者とかの肩書の方が格好良く見えるから不思議だよね。
「一応終わったと考えていいのかしら」
「みたいだね……」
アリスが恐る恐る俺に尋ねた。
件のニャルメアはもう戦闘を継続するつもりがないらしく、おもむろに刀を鞘に納めた。そして呆然とする俺達に満面の笑みでこう告げた。
「さてさてお遊びはここまでニャ。我らがギルドマスターがカゲト達をお呼びニャ!!」
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