第33話 陰キャが女の子を名前呼びするのは不敬罪にあたる
『聖剣★ヒーリング!』
そんな気の抜けるほど間抜けな言葉が無配慮にも辺りに響き渡った。
聖剣から降り注ぐ淡い光は一ノ瀬アリスの傷を急速に癒した。その癒しは傷を塞ぐだけに収まらない。なんと彼女を中心に広がる血溜まりの全てを傷口へと収束させ体内に戻してしまったのだ。
それはまるで負傷箇所のみ時が巻き戻っているようにすら思えた。
「えっと、私……生きているみたい?」
「……みたいだね。はぁ~~~、一時はまじでどうなるかと思った~」
峠は過ぎたと理解すると急に体からドッと力が抜けた。
今や瀕死の傷は見る影もない。破れた服の隙間から見えた柔肌はまるで陶器のように綺麗で傷の一つすら見当たらなかった。
とにもかくにも、一先ずアリスの命に別状はなさそうだ。
問題は
「おい。どいうことだ?」
『そんな怖い顔しないで下さいよマスター。良いじゃないですか、結果的に誰も死んでいませんよ?』
「は? ふざけろよ。何ヘラヘラしてんだ、死んでいたかもしれねぇんだぞ」
『いやぁ最初に痛い目を見ておいたほうがいいかなと。それに聖剣パワーで絶対に死なせるつもりはなかったので大丈夫です無問題ですノープロブレムです』
なにが大丈夫だよ。死ななければノーダメージとでも言うつもりか。なんか滅茶苦茶すぎて頭が痛くなってきたな。
『といっても今回はレベルが低すぎるアリスちゃんだから出来たことです。マスターが致命傷を負った場合、同様の事は出来ないのであしからず』
「そういう問題じゃないんだよなぁ。はー言っても無駄そうだしもういいや。次やったらへし折るからね」
会話する中でなんとなく察した。
どういう理論かはあまり理解したくないが、今回のこれはおそらく彼女なりの合理なのだ。
彼女は肝心な事はろくに言わないが同時に嘘もつかない。だから彼女の『最初に痛い目を見たほうが良い』というのはまぎれもない本音なのだろう。なにそれ怖い。スパルタ過ぎだし修羅の国かよ。
『うひークワバラクワバラ。肝に命じておきますマスター』
本当かよ。どうせ肝に命じるだけとかそういうオチなんだろうなぁ。
正直捨て去りたいところだが、この
それに王国から逃亡しているこの状況を鑑みるとまだこの聖剣は所持していた方が良い気がする。なんというかあの王国王女は不気味なのだ。根拠はないが底知れぬ何かを感じてしまう自分がいた。
そんなわけでアリスには悪いが、今回は釘を指すだけにしておいた。
「一ノ瀬大丈夫?」
「ケホッケホッ。え、えぇ、今のところ命に別状はなさそうよ」
「あんまり無理はしないようにね。聖剣ちゃんにはキツく言っておいたから。一ノ瀬が望むならへし折っとくけど」
『ちょっ』
「無用よ、一応貴方達の会話は聞いていたから今回の経緯は概ね理解しているわ。命に別状はないし、良い経験を積めたと考えることにするわ」
「そ、そう……」
この子のメンタルの強さも大概よね。
普通ならトラウマものだが、彼女なりに勝手に落としどころを見つけているらしい。もしかして俺の周りってヤバい人多い?
「そ、それでその……」
何故かアリスが俺の顔面辺りを見てモジモジしている。なんぞ?
「あ、あの……さ、さっき私のことを名前で呼んでいたわよね?」
「へ? あ、あぁついとっさに……不快だったら謝るけど」
一ノ瀬が魔角猪の角で貫かれた時のことだろうか。
駄目か? やっぱり駄目なのか?
やっぱり僕みたいな陰キャが学園一美少女と名高い彼女の名前を口にするのは不敬罪に値するだろうか。何それ現実が厳しすぎてぴえん。
「べ、別に不快ではなかったわ。むしろ……」
ナンナノモー。
アリスは何故か耳を真っ赤に染めてうつむいてしまった。こういう状況で陰キャオタク童貞である俺に出来ることなど存在するわけもない。
誰か、誰か助けておくれ。
ていうか普段は頼んでもないのに騒がしい聖剣ちゃん達はなんでこういう時に限って大人しいんだよ、クソが。
アリスの理解不能な行動に情けなくも狼狽していると、
『はー黙って見てりゃなんて様だよ。まったく見てらんねぇぜ』
聖剣ちゃんでもなければ魔剣ちゃんでもない。そのどれでもない荒っぽい声が脳内に直接響き渡った。
はい???
なんだか既視感あるなこれ。またこのパターンですか? このパターンなんですか???
とはいえ、お約束は大事だ。
お約束とは物語を円滑に進める潤滑油であり、時に険悪過ぎる雰囲気を吹き飛ばしてくれるユーモア溢れる清涼剤でもある。
というわけで、はいせーの。
えっと、どなた様です???????
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