第12話 オタクに優しいギャルは実在する
月夜に照らされた露台。
そんな中で彼女はこれまた月夜に煌めく金髪を輝かせていた。その毛髪は天然ではないもののどこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。まるで真夜中だけに咲く向日葵だ。俺は陰キャのくせしてそんなことを柄にもなく思った。
「オタク君こっちこっち!」
俺と同じくこの世界に強制転移させられたクラスメイトのギャル氏。彼女は此方に気がつくとはチョイチョイと突き出した人差し指を動かした。
「?」
なんぞ?
疑問符を浮かべていると彼女は現在座っている長椅子をポンポンと叩いた。どうやら座れということらしい。
特段断る理由もないのでお言葉に甘えることにした。
もちろん陰キャなのでちゃんと距離を空けて座った。俺はそこんとこキチンと弁えた陰キャなのだ。しかしギャル氏は何故かそんな俺の様子を見て苦笑いを浮かべた。
「今日はごめんねー。アイツら全然目茶苦茶でさ。全然話も聞いてくれないし困っちゃうよねー」
「あっ、はい」
アイツらとは陽キャ氏達のことを指すのだろう。
それにしても彼女の言うとおり
あ、でも現実の民主主義もだいたいそんなもんか。上手いこと法律やらを駆使してやりたい放題だもんね。大国は国際法とかガン無視だし。やっぱり世の中はクソ。
彼女曰く事前に俺を除いた話し合いがあったらしく、彼らは全然人の話を聞かない状態だったという。
まぁ、案の定といった感じだ。むしろギャル氏が止めに入ってくれていたことのほうが驚きだった。オタクに優しいギャルか? 都市伝説とまで言われるオタクに優しいギャルなのか?
「明日、アタシの方からも言っとくから大目に見てくれると嬉しいな」
ギャル氏は『アイツ等も根は悪くないんだ』と付け加えた。
なにこの子。天使かな?
そもそも彼女は何も悪いことをしていない。さっきの件だって上手いことフォローしてくれたぐらいだ。
しかしここまでくる少し罪悪感が湧いてくるな。なにせ俺は明日の朝には一言も告げずにここからおさらばするわけだし。
「どしたんオタク君。固まっちゃってさ」
反応が遅れたせいかギャル氏は俺の顔を不安そうに覗き込んできた。
よし彼女には本当のことを言うか。
本来であれば逃亡計画を他者に漏らすなどリスクでしかない。だけど彼女には話していいと素直にそう思った。
「あー悪いけど俺、ここ出るわ」
ギャル氏は一瞬目をパチクリさせた。
「あー、そのほうが良いかもねー」
そしてなんとも申し訳なさそうに後頭部を数回かいた。
やっぱりこの人は良い人だなぁ。
なにせ俺は聖剣を引き抜いた勇者だ。最重要人物であり、そんな人間が勝手に逃亡したら連帯責任で何を言われるかわかったものではない。
それなのに彼女は文句一つすら言わなかった。むしろこちらの心配までしてくれているまである。大天使かよ。
「……」
そんな普段らしからぬ彼女を見て俺にも思うところあった。
普段ならこんなこと思いつきもしないし、ましてや実行に移そうなど露ほども思わないだろう。でもギャル氏は良い人だ。よく揶揄される都合の良い人とかではなく文字通り善い人。
「ギャルさんも一緒に来る?」
だからだろうか。自然とそんな言葉が零れた。
「へ? 私も?」
「あっはい嫌ですよね。サーセン忘れてくださいなんでもないです」
これだから陰キャは。そういうところだぞ。優しくされたらすぐ勘違いして調子に乗る。穴があったら七年ぐらい籠りたいレベル。そして時が来たら究極完全体グレート陰キャになるんだ……存在価値のない化物ですねこれ。
「あ、いやいや! 嫌とかじゃなくてさっ! 急だったから驚いちゃっただけだよ!!」
慌てて訂正するギャル氏。何この子、めっちゃいい子じゃん。結婚しよ。
「気持ちは本当に嬉しいけど今回はパス。ミーコとか
ほんとこのギャルさんはいい人だなぁ。オタクに優しいギャルは実在したっ完!
「でもオタク君がこんなこと誘ってくるなんて意外だなぁ。ニシシ、案外タラシだったりする?」
俺がオタクに優しいギャルの実在に胸打たれ震えていると、何を思ったのか彼女は悪戯っぽく笑った。
「そんなわけない。悲しいことに未来も含めてろくにモテた試しがないよ」
「未来もないんだウケる」
彼女は俺の言葉にケラケラ笑った
そうなんだよとても可哀そうな存在なんだよ俺。是非ともギャル氏のお力でこの救いようのない化物を救済して欲しい。具体的には陰キャにも寛容なお友達を是非とも紹介して頂きたい。出来れば美人目な感じで……あ、なんでもないです。
「んーそうだなー。あっいいこと思いついた! オタク君があんまりにもモテなくて暇そうにしてたらウチが彼女になって上げるっ!」
「ブフォッ!!?」
阿呆な空想に浸っていたら斜め上遥か上空にキャノンボールをぶち込まれた件について。何をおっしゃられているんです???
「あ、もしかして嫌だった?」
しゅんとするギャル氏。
「いや違う違う違う!!」
「アハハ必死でウケる」
今度は満面の笑みを咲かせた。やっぱり大天使ですわ。俺は彼女の笑顔を見てそんなことを思うのだった。
◆
「っともうこんな時間か。色々と準備があるしそろそろ行くよ」
気がつけば彼女と会話してからかなり時間が過ぎていた。時計はないが既に一二時は超えているように思える。
「
「うん。そっちもね」
基本的に俺はクラスメイトが嫌いだ。うるさいし、無駄に恋愛脳だし、謎カースト制度だしこの上なく価値観が合わない。
今後、この世界で死なないぐらいで目茶苦茶不幸な目に合えと思ったりもする。
それでも人の良い彼女だけは幸あれと、俺は柄でもなくそんなことを思うのだった。
ちなみにキモオタ氏にも声をかけてみたがデュフデュフ何言っているか分からなかったので放っておくことにした。
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