第10話 銀行(国庫)強盗? 罪悪感とかそういうのはママのお腹の中に置いてきました。



「ウヒヒ満足満足超満足。ウヒヒヒヒ」


 気分は上々も上々。絶好調なまである。国庫の中身を根こそぎ奪い取った俺はかつてない程に上機嫌だった。聖剣ちゃんの案内もあり何一つバレることなく自室に戻ることが出来たのも大きい。


 アイテムボックスに制限がないという聖剣ちゃんの発言も間違いではなかった。なにせあれだけあった国庫の中は綺麗サッパリ異空間に収まっているし。金銀財宝だけではなく保存食らしきものまで存在した為、しばらく食うことに困ることもないだろう。


 こりゃ笑いが止まりませんわ。ウヒヒ、ウヒヒヒヒヒヒヒ。


『もはや悪人ですねぇマスター』


『マスター絵面似合い過ぎて魔剣的にも正直ドン引き~』


「うっさいぞ。そもそも魔剣ちゃん達に言われたくないわ」


『あ、アタシの呼び方のもそんな感じなのね。別に良いけど正直センスよわよわ~』


 うっさいうっさい本当にうるさいよ。

 だいたい僕のネーミングセンスの何が問題だっていうんだ。いいじゃん聖剣ちゃん魔剣ちゃんって。え、いいよね?


 それに国庫の件だってボロクソに言いたい放題だが元を正せば聖剣ちゃんが言い出したことだ。俺は悪くないし、仮に捕まったとしても聖剣アイツがやれって言いましたと言い逃れ可能なわけだ。


『うわ最低すぎてガチで引くんですけど』


「君に言われたくない件について」


 君なんて聖剣の癖に全然清廉さの欠片もないじゃん。こんなのを奉らなければならないこの国に同情するまである。

 それはさておき資金面はこれで問題なくなった。

 むしろ十分過ぎるし、遊んで暮らせるんじゃなかろうか。異世界隠居生活とかワンチャンあるな。

 あ、でもゲームとかないし普通に嫌だわ。


「……」


 これで脱出する準備はほぼ完了だ。その気になればすぐさま実行に移せることだろう。


『? 急に黙り込んでどうしたんですかマスター?』


 しかし。しかしだ。俺の心の片隅にはシコリのようなものがあった。


『あーマスターはむっつりさんですねぇ』


『あらあらお兄さんも好き者ねぇ』


「いやいやいやいや」


 二人は俺の様子を見て何かを察したらしい。

 片方はニヤニヤもう片方はニマニマ。喋る武器が二倍に増えたせいか無駄にやかましい。顔こそないがそんな声音で本当にやかましい。


 まぁ、その?

 俺も絶賛思春期男子なわけで全くもって微塵もそういう下心がないと言えば、それも嘘になる。

 しかし俺の心中のほとんどを占める感情は全く別のものだった。

 俺の懸念とはズバリ、一ノ瀬アリスだ。


 真面目な話、彼女はマジで危ないのだ。

 特に問題なのは彼女の容姿だ。悪いわけじゃない。むしろ良すぎるほどなんだけど。けれどそれが最悪の結果を招きかねかねない。


『まぁマスターの懸念も分からないでもないですがね』


『まぁねぇ。特に思春期の男子なんてお猿さんと変わらないもんね』


「でしょ?」


 どうせろくな目に合わない。間違いない。

 元々男子からは羨望の目を向けられ、女子からは煙たがられていた存在だ。それがただ一人無能という状況。つまりクラスカースト最上位存在が最下位に転落したわけだ。

 某SNSの広告じゃないが何も起きないはずがない。


『とはいえマスターも美味しい思いとやらが出来ると思いますがね』


「何それもしかして試してる?」


『はい僭越ながら。ここでイエスと言おうものなら聖剣スペシャル去勢ビームを披露したところです』

 

 なにそれ怖いクソトラップじゃん。重い重い。選択一つミスれば子孫を残せなくなるとか怖すぎ。

 まぁどの道、俺のように由緒正しき童貞にそんな度胸があるわけもない。それに俺は何だかんだ純愛主義であり夢見る男子高校生。そんなことをして得れる関係性に何の魅力も価値も感じないのだ。


 よし。


『あれ? マスターこんな時間にどこに行くつもりなんですか?』


 分かっている癖に。

 俺は心が思うままに、心臓の底から湧き出す衝動に従い部屋から飛び出した。






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