第5話 聖剣と書いて不良債権と読む


 訓練施設から抜け出してウロウロしていると二つの人影が目に入った。見覚えがある。俺と同じく拉致同然で異世界召喚されたクラスメイトだ。一人は非常に人相の悪い金髪ヤンキー。もう一人は学園一とも言われるほどの黒髪美少女一ノ瀬アリスだ。


「やめてっ! 触らないでくれるかしら!」


「へへへ、いいじゃねぇか」


 わぁお。

 なんて見たことあるような展開なんだ。そこには人類がこれまで発展してきた要因をドブに放り投げる阿呆がいた。要はセクハラ。


 まぁいつの時代も脳と下半身が直結したヤンキーの行動なんて一緒か。もうなんかいっそ哀れですらある。


「あ? なに見てンだ。見せ物じゃ……って、お前はクソ陰キャじゃねぇか」


 いや陰キャであることに間違いはないんだけど。こうもストレートに言われるとそれはそれで遺憾だ。遺憾の意を示しますゾ。


「いやいや。一応悲鳴が聞こえたみたいだから様子を見に来ただけだよ」


「チッ余計なことを。いいか? こいつはな、無能の役立たずなんだよ! だからそれ以外で役に立って貰うってわけだ。何だったらお前にもいい思いをさせてやろうか?」


 俺が飽きるまで使った後だけどな、と下品な笑みを続けた。こいつほんとクソヤンキーって感じ。


「あっ、間に合ってます」


 別に間に合ってはない。俺は依然として童貞街道まっしぐら爆走中である。そして大変悲しいことにコースアウトする見込みはまるでない件について。


 まぁいいや。元より純愛主義者であり無理矢理は趣味ではないのだ。あ、薄い本とかそういうのであれば大好物ですハイ。


「つーかよぉお前、聖剣をよこせよ! クソ陰キャ!!」


「あ、はい。どうぞどうぞ」


「えっ」


「えっ」


 ヤンキーどころかアリスすら唖然とした。

 いやぁ捨てるのは無理でも譲渡ならいけるかなって。


「あーいや、やけに素直だなおい。まぁいいや貰うかんな?」


「どうぞどうぞ」


 正直、そんなの持っていたところで戦争兵器にされるだけですしおすし。

 その点、ヤンキー氏は富と名声及び性欲にしか興味なさそうだからおあつらえ向きでしょ。


 しかし、事はそう上手く進まなかった。


「ぐお!? お、重くて持ち上がらねぇ!? てめぇ何しやがった!?」


 そんなこと言われましても。実はなにもしていないんだなこれが。

 まぁそんな予感はしていましたよ。そもそも誠に遺憾ながら選ばれた人間しか抜けない聖剣だ。抜けなかった人間に譲渡出来るはずもなかった。


 うーん、やっぱりだめだったかぁ。どうしよこの不良債権せいけん


「てめぇ……馬鹿にしやがって! 覚えていろよなっ!!」


 えぇ……むしろそっちの要求に従っただけなんだよなぁ。

 ヤンキー氏はその激情に任せるまま壁に蹴りを入れるとこの場を去ってしまった。残された俺とアリスはただただ呆然とするばかりである。


 とりあえず思ったことを一言。壁を蹴飛ばしていたけど足痛くないの?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る