第4話 勇者命名・聖剣ちゃん


 翌日、召喚されたクラスメイト全員と王国王女は朝食を共にしていた。


「うふふ、昨日は来てくださいませんでしたね。私、ずっとお待ちしていましたのに」


「あ、あはは。ちょっと疲れちゃいまして……」


 俺の隣にわざわざ座する王国王女がにこやかな笑みを浮かべる。まさか爆睡をかまして忘れていたなんて言うわけにもいかず全力で誤魔化した。


 クラスメイトの大半は朝食を食べつつもこちらの様子を伺っている感じだった。まぁそうなるよね。予想外にも陰キャが聖剣を引き抜いちゃったわけだし。心中穏やかではないだろう。     


 まぁ気にしたところで仕方ないし、そんなことどうでもいいぐらいに料理が旨い。異世界ながら滅茶苦茶おいしい。海外に行くと結構口に合わないとか聞くのでそこは少し安心した。


「もう! いけずなお方ですね。今日こそはぜひお越しください。約束ですよ?」


「あ、はい」


 前向きに鋭意検討致します。

 童貞的にはあまりにも魅力的なお誘いなんだけど、ハニートラップなのは目に見えている。某首相のように検討に検討を重ね、検討を加速させた上で検討をさせていただきたい。


『マスターそれ絶対に行かないやつじゃないですか』


 うるさい。


 今日も今日とて俺の心を勝手に読み取り俺だけに聞こえる声で話しかけて来る伝説の武器(笑)は喧しいことこの上ない。

 そもそも忠告してきたのは君だろうに。


『マスターは相変わらずそっけないですねぇ。そんなんじゃ女の子にモテませんよ?』


 叩き折るぞこの野郎。


『ジョークですよジョーク。聖剣ジョーク』


 クソみたいなこと言いやがって。

 ほんと産業廃棄物処分したい。試しに朝食前に泉に放り投げたらものっそい勢いで戻ってきたんだよね。そうとうキレられた。


「ところで勇者様、今日はいよいよ実戦訓練ですよ」


 朝食を食べ終える頃、王女がそんなことを耳打ちしてきた。


 ほほぅ戦闘訓練とな。

 

 基本的に異世界転生には否定的な俺だが、戦闘訓練と聞き心の底から沸き上がった感情はマイナスのものではない。ぶっちゃけほんの少し楽しみだったりするのだ。


 あれでしょ。俺は仮にも勇者なわけだから、『エターナルフォースブリザード』とか使えちゃうわけでしょ。相手は死ぬやつ。


『そう上手く行きますかねぇ』


 俺は聖剣の意味深な言葉に首を傾げるばかりだった。



 ◆



「よし。では各々武器を構えよ!!」


 王国所有の闘技場にて戦闘の訓練が開始された。


 昨日まで腑抜けた日本の高校生でしかなかった俺達に何をさせるつもりだよと思うが、そこは異世界転移。


 例に漏れず転移特典なるものがあるらしく、類いまれなる力を得るらしい。聞くところによると一騎当千。ほんまかいな。


「うおすげー! 俺武器なんて初めて見たよ!!」


「ちょっと男子―! 振り回さないでよ。危ないでしょっ!!」


「ほらほら皆。遊んでないでそろそろ真面目に話を聞こう」


 闘技場ではクラスメイトの大変が初めて触る武器に大興奮といった感じだ。それをまとめ役である陽キャイケメン天上院天下が諫めている。まさに異世界転移。


 そして俺は何故か訓練には参加せず、二階の観覧席に座らせらせていた。なんで???


「勇者様は聖剣の力がありますからね。わざわざそんなことをする必要などありませんよ」


 俺の釈然といかなそうな雰囲気を感じ取ったのか、隣に座る王女は微笑みを浮かべた。


 そんなことってある?


 ていうか勇者様って呼ばれ方が慣れんなぁ。


『いい加減諦めて慣れたほうがいいですよ? しかし王国の連中も露骨ですねー』


 あ、やっぱり?


 聖剣ちゃんの話を聞いて確信した。

 話を聞く限り勇者というのは象徴以上に最大戦力かつ決戦兵器だ。そもそも異世界人を転移召喚するほど戦況は芳しくないと言っていたはず。


 それを遊ばせておく以上、どう考えても裏があるでしょ。


「あら勇者様? どこ行かれるのですか?」


「あ、お花を摘みに行ってきます」


 もちろん嘘だ。そもそも闘技場に花なんてない。

 俺はあまりにもアホらしくなったのでこの場を離れ城内を散歩することにした。



 ◆



 闘技場から離れて少し時間が経った頃。人気がなくなった辺りで聖剣ちゃんが話しかけてきた。


『ところで聖剣ちゃんってなんです?』


「あぁそれね。ほら聖剣ってそのまま呼ぶのもなんかアレかなって」


『うわ、センスねー』


 いつもの丁寧口調が崩れるぐらい呆れられた件について。ダメか。ダメな感じですか。

 じゃあアレか。アポカリプス・ディザスターとかがいい?

 ちなみにこの名前は世界の終末を意味しましてですね(早口)。


『はぁマスターにそういうのを期待した私が馬鹿でした。もういいです聖剣ちゃんでいいです』


 なんか想像以上にものっそい長いため息を吐かれた。解せぬ。








 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る