第39話

 サフィラスが目を伏せると村長は、視線の先で丸まるネーヴェに気付く。その様子にフッと口角を上げると、窓の先に広がる樹海を眺めた。


「先程の事件――朧げにしか憶えておらんが、エルリカ曰く、中々凄惨な現場だったらしいな。当の本人も気丈に振る舞っていたが、話をした後は寝込んでしまった。暫く……いや、年単位になるかもしれんが。彼らのトラウマを一日でも早く癒やせるよう、全力を尽していく所存だ。……ところで、貴君らにはコレを返さねばな」


 すると村長は、枕元に設置された引き出しから、一つの白封筒を取り出す。厚みのあるその内側には、薄っすらと当初の目的の影が見えた。


「貴君らの馬を休ませている、厩舎の鍵だ。既に管理者に話はつけてある故、好きなタイミングで向かうとよい。無論、案内図も同封してあるぞ」

「ああ、分かったよ」


 サフィラスが封筒を受け取ると、村長は三人に向けて、深々と頭を下げた。


「……本当にすまなかった。詫びになるとも思えんが、せめてもの償いとして、ディナーを振る舞わせてもらえぬだろうか」

「おや、それはかい?」

「う、うむ。交渉というより、提案の方が近いが……先程有耶無耶になった、エルリカの件について話しておきたくてな。貴君らは、明日にもこの村を立つのであろう? ならば、チャンスはここしかない。何より――今伝えなければ、一生伝えられぬ気がするのだ。 ……頼む」


 その縋るような声に、サフィラスはリベラとロアの方を見る。


「……だ、そうだけれど。キミ達の意見を聞かせて貰えるかい?」

「うん、私は良いと思うな。ロアは?」

「ええ、アタシも賛成よ。折角だもの、とびきり美味しいものをご馳走してもらいましょ!」


 和気藹々あいあいとディナーの予想をする二人に、村長は安堵の表情を見せると、テーブルの上のベルを手に取る。


「フッ、満場一致だな。待っておれ、直ちにシェフに知らせようぞ。各々食べたい食材があれば、今のうちに教えてくれたまえ」

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