第26話
サフィラスは立ち上がり、背後に佇む二人に冷たい眼差しを向ける。彼らとの距離は、おおよそ10m。飄々と髭を弄る村長の数歩後ろには、苦悶に顔を歪める少女が、震える手を抑えていた。
「……成程。気配を察知出来なかったのは、キミが
「っ……ごめんなさい。でも、私は味方だって言ってない。それに、きちんと彼の存在も教えた。何も嘘は言っていないわ」
「ああ、その通りだ。私自身が此処を訪れる選択をしたのであって、決してキミが謀った訳でも、強要した訳でもない。それよりも――
「うん……そうよ。少し苦しそうだけど、安心して。一番浅いところに掛けたから、まだ助かる可能性はあるわ」
そう言って
「上出来だ、エルリカ。半信半疑であったが、こうも上手くいくとは思わなんだ。その功績を讃えるべく、後で褒美をやろう」
「……はい。ありがとうございます」
「して、まだ力は残っていそうか?」
「いいえ。もう……」
「そうか。では、お主はそのまま待機しておれ」
「わかりました」
服の裾に歯を立てるジェイドを他所に、会話を繰り広げる二人。サフィラスは、ゆっくりと床に広がりゆく血を一瞥すると、村長に問い掛ける。
「キミの目的は一体何だい? 丁寧に苦痛を与えてから、彼を処分することかい?」
「いいや、違う。流石にワシとて、そこまで鬼ではない。そして貴君はどうやら誤解をしておるようだが、ワシは生徒の者らをぞんざいに扱っておらんぞ? 定年を過ぎた者は、労働力として他国へ提供し、大病を患った者には、情けとして安楽死を提供しておるからな」
悪びれもなく答える村長に、サフィラスは語気を荒らげる。
「ならば何故、今こうして彼を安楽死とは程遠い目に遭わせているんだ!」
「おお、怖い怖い。成人たるもの、負の感情をそう簡単に表に出すものではないぞ」
「っ……!」
「ところで、ジェイドがそのような末路を辿っている理由を問うておるのだったな。それは、貴君が我が村を訪れたが故なのだよ」
「……意味が分からない。まさか、これが交渉だとでも言うのかい?」
「そうさな、概ね正解といったところか」
すると村長は、サフィラスの佩く剣に視線を向ける。
「なに、要求は簡単なものだ。ワシは、貴君の所持しているその剣身が見たいのだよ」
「キミは――たったそれだけの為に……私達に接触し、馬を拐かし、リベラとロアを巻き込んだのかい?」
「いいや、それは違うぞ。当初の目的は、単にイルミス国と一層太いパイプを作りたかったが為だ。だがそれも貴君をひと目見た瞬間、上塗りされたのだよ」
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