第25話
廊下を走り回る生徒を躱しつつ、やがて歴史館へと辿り着いたサフィラスは、鍵の掛かっていない扉に手を伸ばす。
『おや……あれだけ厳重に管理していると豪語していた割には、施錠されていない。引き抜こうとした形跡のある剣といい、やはり彼は、此方を試す腹積もりらしい』
目線を落とし剣の柄を握ると、僅かにズレている鞘を正しい位置へと戻す。
『しかし不明瞭なのは、彼女が術を駆使することが可能かどうか……そして、どちら側の立ち位置なのか。場合によってはこのローブも、既に意味を成していない可能性がある。果たして、何処までが想定の範囲内か……』
警戒を片隅に目的地に辿り着くと、蜂を模したドアノブに触れ、鍵の掛かった漆黒の扉へ言葉を紡ぐ。
「――
フードを外した彼は、ドアノブを捻り内部に足を踏み入れる。眩い光に目を細め、徐々にピントを合わせていくと、其処には人ひとりが横たわれる程度の小さな檻があった。中には薄汚れた制服を着た青年がおり、サフィラスは南京錠の前で立ち止まる。
「キミがジェイドかい?」
「げほっ――はい。僕がジェイドですが、その……貴方は……?」
もはや立ち上がる気力もないのか、ジェイドは両腕でゆっくりと前進すると、サフィラスと向き合う。その口元には、拭い損ねた喀血の跡が赤黒く残っており、サフィラスは眉を顰める。
「……キミを救いに来た者だ。けれどその前に、軽く治療をさせてもらうよ。特に痛む箇所を教えてもらえるかい?」
「えっと、肺が……あなたはもしかして、お医者さんなんですか?」
「医者ではないけれど、
「わっ……!」
言葉を紡ぐと共に、サフィラスは青年の胸部に手を当てる。彼の光る指先に戸惑うジェイドだったが、喘鳴が消えるにつれ、落ち着いた表情を見せる。やがてジェイドが深呼吸をすると、サフィラスは手を放した。
「……さて。これで、多少なりとも動けるようになったかい?」
ジェイドは幾度か声を発すと、二つの瞳からはたはたと涙を零す。
「……すごい。息もしっかり吸えるし、肺も全然痛くない! あの、本当にありがとうございます! この身体なら、今度こそ僕は――」
しかし、喜びも束の間。サフィラスの背後から、一言声が襲い掛かってくる。
「“果たして、自身の生命に価値があったのか”と、確かめることが出来るな」
そして村長の嘲笑と共に、ジェイドの腹部から血が噴き出した。
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