第27話
背後から聞こえる呻き声は、次第に衰え始め。サフィラスは、剣の柄を強く握ると静かに口を開く。
「……ふふ。仮面が効いていなかったのであれば、初めから演技せずに向き合って欲しかった。そうすれば……何の罪もない彼が、犠牲になることもなかっただろうに」
「いいや、それではつまらぬ。予測可能な人生ほど、心を殺す毒はないからな。貴君らも、ここ数日を楽しめたのではないか?」
「――ああ、そうだね。けれどキミも知っての通り、私達は明日にも此処を立つ。だから、今この時をもって全てを終わりにしたいんだ」
その言葉に村長は、腕に巻いた時計を一瞥すると、首を小さく縦に振る。
「うむ。ワシも充分に楽しめたことだ、その願いに応えよう。事と次第によっては、ジェイドにも別の道が切り開かれるだろうて」
「その内容を審問したいところだけれど……一先ずは、彼の治療をさせてもらえないだろうか」
「構わん。だが、分かっておるな? 下手な動きをみせれば――」
サフィラスは、村長から目を背けるとしゃがみ込み、息も絶え絶えなジェイドの腹部に触れる。
「ああ。言われなくても、理解しているよ」
そして背後からの視線をローブで振り払い、サフィラスは手を血に濡らしながら言葉を紡ぐ。
「――
横たわるジェイドは、もはや意識を手放しており。サフィラスは右手で彼の手首を掴むと、更に言葉を重ねていく。
「――
根気強く術を送り続けるサフィラスの額には、やがて汗が伝う。
『……駄目だ、想像以上に衰弱している。彼女はまだ助けられると言っていたけれど、流石に事切れてしまっては、私も救うことは――』
すると突然、ジェイドが大きく身体を
「っ、はあ、はあ……っ。ううっ……なんで、どうして僕ばっかりこんな目に……! 僕はただ、普通に生きて、普通に誰かに必要としてもらいたかっただけなのに……! どうして、嫌だ――げほっ、もう何もかもが嫌だ……!」
「……すまない、私が軽率に村を訪れてしまったばかりに。せめて今は、休んでいておくれ」
その様子を見届けていた村長は、天を仰ぎながら感嘆の声を漏らす。
「――素晴らしい! やはりオリジナルの迫力は圧倒的だと言わざるを得ない! レプリカとは大違いだ!」
「……さて、剣身を見せれば良いんだったね」
サフィラスは剣の柄に手を掛けると、その剣身を
「おお……これが、かの有名な! だが、些か聞いていた話と違うな?」
「村長。耳を貸してもらえますか」
同じく歩み寄ってきたエルリカは、村長の耳元に顔を近付けると、何やら小声で話し始める。村長は幾度か頷くと、目を開いて手を打った。
「ふむ、ふむ。ほう……成程、そういう事か!」
「これで満足かい? では、約束通り全てを終わらせてもらう。キミが
「うむ、要件を呑もう。だが――」
村長は意地悪い笑みを浮かべると、剣を鞘に収めようとするサフィラスの手を止める。
「次の取引だ。確か――リベラとロアと言ったか。彼らに無事に明日を迎えさせたくば、その剣でジェイドを穿いてみせよ」
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