第28話
「……拒否させてもらうよ。既に、剣身を見せるという取引は済んでいるからね」
「うむ? それはジェイドを救う対価ではないか。今開始しようとしているのは、二つ目の取引であろう」
「――ふざけるのも大概にしてくれ! キミは一体、何度彼の生命を
サフィラスが剣先を向けると、村長は人差し指を横に振る。
「おっと、軽率な行動は慎んだほうがいいぞ。何せこちらには、エルリカがおるのだからな」
「……いくら虎の子とはいえ、磨耗していればただの少女だ。それに怯むほど、私は弱くないよ」
「その割には、初対面であるジェイドを救うために、躍起になっていたではないか」
「……」
「なに、これで本当に最後だ。その剣の
サフィラスは、テーブルに身体を預けるエルリカに視線を動かす。ふと瞳が合うと、彼女は振動のない声を届けてきた。
“わたし に まかせて”。そう訴え、村長が振り向くと再び口を
『彼はエルリカのことをレプリカと称していたけれど、一体何処まで再現されているのだろう。私の不意をつけたのは事実である以上、下手に刺激してリベラ達に危害が及ぶことだけは避けたい。ならば、私が取るべき手段は――』
暫しの思案の果てに剣先を下ろしたサフィラスは、村長に向き直る。
「……分かった、キミの言う通りにしよう。けれどその前に一つ、尋ねたいことがある。彼女はこの剣に触れたかい?」
「いいや、触らせとらん。だが、それがどうした?」
「彼女が私のように術を駆使できるのであれば、もしかするとこの剣を使えるかもしれない……そう思ってね」
「ふむ。ワシも、エルリカが何処までオリジナルに近いか確かめたいところではあるが。貴君にメリットはあるのか? まさか貴君の代理として、エルリカにジェイドを討たせる魂胆ではあるまいな?」
ビクッと肩を跳ねさせるジェイドに、サフィラスは柔和な声で答える。
「ふふ、まさか。手を汚すのは、私ひとりで充分だよ。 ……既知かもしれないけれど、私の同族はもうこの世の何処にも居なくてね。たとえレプリカであろうと、彼女が近しい存在と証明されたら嬉しいのさ」
「ふむ、成程な。ではエルリカ、あの剣を使いこなしてみせよ」
「……はい、村長」
エルリカはサフィラスから剣を受け取ると、静かに瞼を閉じる。そして檻に背を向け、村長に駆け寄り剣を振るった。
「……ごめんなさい、村長」
「が……はっ……エル、リ、カ――?」
涙声と共に剣身が穿いたのは、村長の心臓だった。
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