第22話

 昨日から変わらず、分厚い雲の覆う翌朝。サフィラス達は身支度を整えると、村長の自宅に向かった。しかし、呼び鈴を鳴らすや否や現れた、無愛想な警備の男に一蹴される。


「……お前らか。昨日は厚かましくも約束を取り付けたようだが、残念だったな。生憎と、村長は丸一日不在だ」

「おや、朝から随分と血気盛んだね。因みに、何処へ向かったのかも聞けないのかい?」

「ふん、嫌味ったらしい奴め。部外者に公開する情報はない。さっさと出て行け」

「……そうか、それは失礼したね。行こう、二人とも」


◇◇◇


 そうして警備の男から手で追い払われながら、三人は坂道を下って行く。表情を崩さないサフィラスの横では、ロアがぷりぷりと頬を膨らませていた。


「〜っ、もう! 何あの態度、失礼しちゃうわ。最低限の礼儀くらい、弁えておきなさいよね!」


 そんな彼を慰めるように、リベラは手を繋いだままそっと寄り添う。


「あの人、私たちのこと嫌いなのかな?」

「どうやらそのようね。リベラちゃんは、あんなふうになっちゃダメよ?」

「うん。 ……ねえ、ロア。どうして大人はみんな怖い顔してるの?」


 リベラの問いに、ロアは哀しげに微笑む。そして、眼下に広がる町並みを見つめながら答えた。


「……それはね。大人になると、色んなことを全部ひとりで背負わなきゃいけなくなるからなの。アタシも子供の頃は、不思議でしょうがなかったわ。「どうしてお父さまとお母さまは、いつも笑わないの? 大人は毎日が楽しくないの?」って」

「お父さんとお母さんは、何て言ったの?」

「そうね、確か……「いいや。お前の成長を見ることができて、日々とても幸せだとも。けれど、それ以上に大きくのしかかっているものがあってね。気を使わせてすまなかった」……って言っていた気がするわ」


 その声があまりにも物憂げで、リベラは僅かの間、きゅっと口を閉じ下を向く。しかしすぐに顔を上げると、ロアの表情を覗き込んだ。


「ねえ、ロア。ロアは今、楽しい?」

「ええ、勿論よ。 ――ふふっ、こう見えてアタシ欲深くってね。沢山叶えたい夢があるんだけど、その一つがこんなふうに、世界を旅してまわることなの。どれだけ時間が掛かったとしても、ゆくゆくは全大陸を踏破してみせるんだから! 勿論、リベラちゃんも一緒よ!」

「ほんと? じゃあ、まだ一緒にいられるんだね!」

「当たり前じゃない! なんなら、リベラちゃんが反抗期迎えようと引っ付いてるから!」


 二人が人目も気にせずじゃれ合っていると、サフィラスは軽く咳払いをする。そして、二人をすぐそばの路地裏へと誘導した。


「仲睦まじいところ、妨げてしまってすまない。此処で会話を続けさせてもらえないだろうか」

「いやいや、こっちの方こそごめんなさいね。今は悪目立ち出来ないって、すっかり忘れちゃってたわ。それにしても……サフィラスちゃんにしては、随分あっさり引き下がったわね? てっきり、もう少し交渉するのかと思ったわ」

「ああ、むしろ好都合だと考えてね」

「好都合?」

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