第5話

 サフィラスとリベラが着席すると、ロアは何処からともなく眼鏡を手に取った。そして着用した後に凛々しい表情で本を開くも、サフィラスに突っ込まれる。


「それに意味はあるのかい?」

「雰囲気よ雰囲気。……さて、と。まずは、リベラちゃんの好きなお花についてお話しするわね」

「うん!」

「良いお返事よ。じゃあ、一つ目の不思議について。“どうして同じお花でも、色んな色があるのか”。リベラちゃんは、何でだと思うかしら?」


 暫く考え込んだ後、リベラは口を開く。


「えーっと……お花によって、好きな色が違うから?」

「ふふっ、リベラちゃんらしいステキな答えね。 ――実は蝶々さんや蜂さんに、見つけて貰えるように頑張っているからなの」

「虫さんも綺麗なお花が好きなの?」

「ええ。しかも不思議なことにね、それぞれ好きな色が違うのよ。だからリベラちゃんの答えも、間違いじゃないの。でね、ある蜂さんは白色、ある蝶々さんは赤色といった感じで――」


 熱心に耳を傾けるリベラと、世界の理を噛み砕いて聞かせるロア。その傍らでは、ネーヴェがテーブル上で毛繕いをしていた。そんな二人と一匹を眺めながら、サフィラスは腕を組む。


『それにしても……先の彼女の言葉は一体、何を意味するのだろう。物理的な距離を示唆しているのか……或いは、精神的な距離を指しているのだろうか』


 というのもサフィラスは時折、心当たりのある違和感を覚えていた。


『初めは、彼の王から救う際に抱きかかえていた時。そして二度目は少年に力添えをした後、洞穴で夜を明かした時だった。 ……肉体接触時に、何らかの干渉が行われているのだろうか。しかしその類の能力を、一少女が備えているとは考え難い。だが――』


 ――彼女が森で独りだったのも、が理由だとしたら。


『……まさか、ね』

「って、うわっ――突然何をするんだい?」


 サフィラスが思案に耽っていると、突如として視界が花で埋められる。顔を上げると、リベラが悪戯っぽく笑っているのが見えた。


「えへへ、びっくりした?」

「……とても。けれど、これは何処から?」

「棚の中だよ。他にも色んなお花があったけど、これが一番綺麗だったから」


 そう言うとリベラは、紫苑の花をテーブル上の花瓶に挿す。次いでロアが、真紅の花と純白の花を挿した。


「アタシはこの二輪も好きだわ。 ――ねえ、知ってる? 色ってね、人の心理に様々な影響を及ぼすの。それを利用して、贈る相手に自分の気持ちをさり気なく伝えることが出来るんですって」


 その下ではネーヴェが翡翠の花の茎を齧っており、サフィラスはおもむろに引き離す。そして花瓶に挿し込むと、微笑みを浮かべた。


「……そうか。であれば、この花瓶を贈られたヒトは何を想うだろうね」


◇◇◇


 そうして時は瞬く間に過ぎ去り、終了時刻の10分前となった。ロアは本を閉じると、締めの言葉を声に出す。


「――と、いうワケで。そろそろお仕舞いの時間ね。リベラちゃん、聞きそびれは無いかしら?」

「えっと……少し話が変わっちゃうかもしれないけど、良い?」

「全然問題ないわよ。どんな質問かしら?」

「うん。あのね、お花は種で増えるんだよね?」

「ええ、そうよ」

「だったら、人はどうやって生まれてくるの?」

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