第4話

 リベラは暫し考えた後、短く頷く。


「うん、あるよ。さっきもね、見てて気になってたんだ。同じお花なのに、どうして色が違うのかなって」

「ふんふん、流石はリベラちゃん。目の付け所が鋭いわ。そういった不思議の答えを、知りたいって思ったりはする?」

「うん!」

「お勉強っていうのは、そういう“知らないことを知る”ためにやるのよ。でね、今から行こうとしてるとこは――」


 瞳を輝かせるリベラに、ロアは微笑む。


「ふふっ、待ち切れないって顔ね。じゃあ、早速その答えを一緒に探してみましょっか! 途中でイヤになっちゃったら、その時点で終わりにするわ」

「やったあ! ねえ、ロアも昔はお勉強してたの?」

「勿論よ。難しいけど、それ以上に得られるものがあってね。毎日机と向き合ってたわ。何なら、今でもお勉強中よ」

「すごい! だから色々知ってるんだね」

「あらあら、褒めても何も出ないわよ」


 リベラは尊敬の眼差しをロアに送ると、サフィラスへ話を振る。


「サフィラスも昔はお勉強してたの?」

「そうだね。もっとも、二人とは意味合いが少し異なるけれど」

「お勉強って、色んな意味があるの?」

「……有るよ。ヒトによって、千差万別に」


 リベラから視線を逸らし、彼は伏し目がちに答え続ける。


「こうしてキミ達と支障をきたさず会話が可能なのも、勉学の賜物だ。今は曖昧かもしれないが、数をこなしていくうちに、自ずとリベラにも表れる筈さ」

「そっか……ねえ、ロア」

「なあに?」

「三人でもお勉強って出来る?」

「勿論よ。そうと決まれば、早速お部屋を借りに行ってくるわ!」

「待ってくれ、私は参加するとは一言も――」


 サフィラスの抗議も虚しく、ロアは向かいの建物へと駆けて行った。


「……キミ達は時として、強引に物事を実行に移すきらいがあるね」

「うん。だってそうしないと、サフィラスはひとりでどこかに行っちゃうから」

「確かに先日は、頭を冷やす為に一時部屋を離れたけれど――」

「ううん、違うの。ずっと、もっと遠くだよ」

「……?」


 神妙な面持ちのリベラに、サフィラスは自身の口元に手を当てる。するとロアが、一つの鍵を手に戻ってきた。


「お待たせー! とりあえず二時間だけ貸し切ったわ……って、何かあった?」

「いいや、何も。単に雑談をしていただけさ」

「そう? なら良いんだけど……それじゃ、時間も勿体ないし教室に行きましょ!」


◇◇◇


 “教室”と呼ばれる木造の部屋には、大きな黒板と時計が掛けられており、それらと対面する形で、同じく木製のテーブルが一つ置かれていた。そして三脚ある椅子のうち二つは横並びに、もう一つは黒板を背にした状態で設置されている。


 やがて最後に風に揺らめくカーテンを一瞥すると、サフィラスはロアに尋ねる。


「それで、具体的にどう学ぶんだい?」

「ええ。これから説明するわ」


 するとロアは壁にずらりと並ぶ本棚へ歩み寄り、一冊の本を取り出して戻ってきた。


「いきなり実験は危ないし、まずは知識を深めるところから始めさせてもらうわね。さ、二人とも席に着いて? あとリベラちゃん、ネーヴェちゃんをテーブルに乗せてくれるかしら?」

「はーい!」

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