第51話

 翌朝、厩舎で馬との再会を喜んだ後。サフィラス達は、普段以上に険しい顔をした警備の男の先導のもと、村の入口に向かう。


 入村時に利用した門の手前では、白いシャツに黒いスーツを羽織った村長が、杖と共に佇んでいた。


 サフィラス達と目が合うと、村長はニッカリと満面の笑みで手を振るう。背後には、彼の腰の高さまで積み上がった木箱が3つ。その大きさは一つにつき、一週間の旅行が出来る程であった。


 一同は互いの荷物に目を向けつつ、挨拶を簡単に済ませると、早速本題に入る。


「では、互いに時間も限られているから手短に進めさせてもらうよ。先ずは此方から、約束の品だ」


 サフィラスは一歩前に出ると、手に持っている布袋と封筒を差し出す。村長は警備の男に支えられながら両手で受け取ると、歓喜の声を上げた。


「おお、これが――まさか、本当に一晩で用意してもらえるとは思わなんだ! ……む、中々の重さがあるな。開けても良いかね?」

「ああ、構わないよ」


 村長は、いそいそと袋の紐を解いて中に頭を突っ込むと、小刻みに鼻を動かす。しかし、間もなく彼は袋を閉じ直し、落胆の表情を見せた。


「……香りは特にしないのだな」

「その性質上、無味無臭なんだ。くれぐれも零さないように、細心の注意を払って欲しい。書き付けは、薬を調合する際にでも読んでおくれ」

「分かった。貴君らには、何度礼を尽くしても足りぬくらい助けられたな。繰り返しになってしまうが、ワシや生徒の救済、心より感謝するぞ」

「……構わないよ。もしそれが本心であるなら、対価としてエルリカを導いてあげて欲しい」

「無論だ。ではその誓いとして、貴君らにはコレを受け取ってもらいたい。まずは――」


 そう言うと村長は、袋を一旦木箱の上に置き、佇むリベラに手招きをする。


「えっと……私?」


 首を傾げるリベラに、村長は黄色い包装紙でラッピングされた小包みを差し出す。結ばれた赤いリボンには、“また遊ぼうね”と書かれた、一枚のタグが添えられていた。


「……あっ! これ、アイラの文字だよね!」


 リベラが小包みに顔を綻ばせると、村長は咳払いを一つし、真摯な表情で手元の手紙を読み上げる。


「少女――いや、リベラ君。3泊4日という短い滞在期間だったのにも拘わらず、勉学に真摯に打ち込む様は、まるで本当に我が学舎の生徒のようであった。その証拠に、お主は幾人もの友を作り、そして……代え難い青春の1ページを書き記した」

「村長……」

「人生は長いように思えるが、瞬く間に終わりを迎える泡沫の夢である。これから先、お主の前には何度も試練が立ちはだかる。ある時は声が枯れるくらいに笑い、またある時は悲しみに襲われるであろう」


 息を飲むリベラに、村長はフッと微笑む。


「だが――そんな時、思い出して欲しいのだ。艱難辛苦を共にした、仲間のことを。この箱の中には、ケインやユール、アイラ……それに、エルリカとジェイドからの礼の品が入っておる。卒業証書こそ贈れぬが、お主のことは、生徒同然に大切に思っておる。故に、この感謝状を以て、見送らせてくれぬか」

「っ……うん! あのね、村長。その前に、一つだけお願いしたいことがあるの」

「何だ? 申してみよ」

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