第45話

 サフィラスが研究施設に降り立った、その同時刻。離れの二階では、パジャマに着替えた二人がベッドに腰を落とし、雑談を楽しんでいた。石鹸の香りを纏うリベラは、ふと食事を思い出すと頬を緩ませる。


「そういえば、今日のご飯も美味しかったね。もう食べられないのが残念なくらいだよ」

「ふふっ、アタシもよ。けど、今日はネーヴェちゃんとも一緒に食べられて良かったわ」

「うん! それに、村長も楽しそうだった。 ……サフィラスが村長の脚を治してくれたら、きっとアイラたちも元気になってくれるよね」


 ベッドの上を縦横無尽に走り回るネーヴェを眺めながら、リベラは願いを呟く。ロアは眉尻を下げる彼女の横顔を見ると、一人分空いた距離を座り直して埋めた。


「ええ、きっと。 ……それにしても、サフィラスちゃんはどこまで薬草を採りに行ったのかしら。リベラちゃん、心当たりある?」

「ううん。でもそんなに遠くじゃないと思う。前に見つけた時も、村のすぐそばにあったから」

「あら? 前にもこんなことがあったの?」

「うん。イルミスに来る前、私が村の男の子と遊んだ話は覚えてる?」

「ええ。確か、お家に招待してもらったのよね?」


 リベラは頷くと、駆け寄ってきたネーヴェを両手で掬う。


「実はその子のお母さんも、あんなふうに身体が木みたいになってたんだ。頭には、髪飾りみたいにお花も咲いてて。でも村の近くに生えてた白いお花をお薬にして飲んだら、あっという間に治っちゃったの!」

「そんなことがあったのね……」

「でも今回は地図がないから、見つけるのは結構大変だと思う。もしかしたら、朝まで掛かっちゃうかも……私、それまで起きていられるかな」


 緩やかに話すリベラは、片手で欠伸あくびを隠す。つられて大口を開けるネーヴェは、身体を丸めると目を瞑った。するとロアは立ち上がり、ローテーブルの上のポシェットを手に取る。


「地図? サフィラスちゃんが魔法で見つけたんじゃないの?」

「ううん。その子は、お花の生えてる場所が描いてある地図を村の外の人から貰ってて。そこからサフィラスがお花を見つけて、お薬の作り方を教えたの」


 リベラはネーヴェをポシェットの中に寝かせると、ベッドに横たわり、ブランケットを肩まで引き上げる。一方でロアは、ポシェットをローテーブルに置きながら、密かに眉を顰めた。


『どういうこと……? サフィラスちゃんは、薬草のことも調合法も知っている。ここまでは良いとして……村の医師すら匙を投げる奇病を治す薬草を知っていて、かつ正確な地図を持っていた人は一体何者なの?』

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