第44話
扉を開いた先で待ち構えていたのは、通路の両側に隙間なく設置されたポット達だった。その大きさは、どれも大の大人がすっぽりと収まる程。
透明な黄緑色の液体に満たされた内部には、毛の一本も生えていない四本脚の幼体が眠っており、時折ピクピクと桃色の指を動かしている。その外見はさながらヒトの赤ん坊のようだが、皆一様にヒトと異なる特徴を持っていた。
――あるモノの頭部には
『これは……ヒトと野生生物を、掛け合せているのだろうか。渦を巻く巨大角の持ち主は、食用家畜の
歩み寄り間近で観察すると、翼の生えた幼体は突如として眼を見開いた。
「――!」
◇◇◇
サフィラスは凍る背筋に呼吸も忘れ、踵を返す。そして一棟目まで駆け抜けると、仮初めのノブを引き抜き扉を閉じた。
「……っ、はあ、は……っ」
脳裏に焼き付いたのは、真っ赤に血走った瞳。光を失ったその虹彩は、
「
胸元の衣類を握り締め、ズルズルと扉を伝って崩れ落ちる。そうしてノブが消滅するまでの間、呼吸と思考を整えることに専念し、やがて立ち上がるとローブに付いた草を手で払う。
『……あまり遅いと怪しまれる。調査はもう切り上げよう。本来の目的である、
サフィラスは周囲を見渡すと、街区の端で仄かに輝く茂みへと向かう。掻き分けた先で光を放っていたのは、一輪の白壺草だった。前回見つけたものよりも二回り大きい蕾の中には、滴るほどの蜜が詰まっている。それを静かに根元から引き抜くと、慣れた手つきで蕾の先端を紐で縛り上げた。
『……今日得た情報は、胸の内に秘めておこう。そして彼らと別れた時に、いずれ――』
最後に一度だけ建物の方を振り返ると、サフィラスは言葉を紡ぎ、夜空に飛び立った。
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