第41話

 村長曰く、歴史館の東側には研究エリアが有り、其処では売りである新種の魚や野菜、植物を育てているとのことだった。


「エルリカと行動する時だけは、ワシは護衛をつけずにいた。彼女に余計なストレスを与えたくなくてな。学園内でも一等奥にあるエリアだから平気だと、高を括っておったのかもしれん。……しかしその日。学園内に不審者が現れたとの報せがベルに届いた。ワシはエルリカと退避シェルターに向かおうとしたが、時すでに遅し。行き先の道には、見慣れぬ足跡があった」


 そこまで語ると村長は口を閉ざし、わざとらしく勿体ぶる。するとリベラは指を組み、ハラハラしながら問い掛ける。


「ふ、二人はどうなったの?」

「うむ。結論から言うと、エルリカもワシも無傷で助かり、不審者もその場で捕えたのだ」

「すごい! 村長が杖で倒したの?」

「フハハッ! いいや、その逆だ。エルリカが、ワシを救ってくれたのだ」

「そうなの?」

「うむ。何とエルリカは魔法が使えるようでな。ワシ共々姿を隠すと、蔦を罠にして不審者を宙吊りにしたのだ! そう、こんな感じでな」


 村長が両手を使って巧みにジェスチャーをするも、リベラはそれを前のめりになり遮る。


「ね、ねえ! エルリカも魔法使いなの?」

「そうだ。……今となっては使というべきだが。ともかく、絶体絶命のピンチから救われたワシが礼を言うと、エルリカは初めて笑ったのだ。ちなみに補足だが、当時のワシは杖とは無縁であった」

「あ……えっと、ごめんなさい」

「いや、少女よ。謝る必要は無い。疑問は成長の糧である故、積極的に口に出すと良いぞ」

「……うん」


 リベラは髪で口元を隠すと、目を伏せ着席した。すると再び、サフィラスが会話の主導権を握る。 


「そういえば、あの時彼も言っていたね。ならばキミは、一体いつから杖を使い始めたんだい?」

「そうさな……曖昧だが、エルリカを受け入れた日以降なのは確実だ。初めは老化によるものかと思っていたが、違和感は日増しに強くなってな。暫くして医師に診てもらったのだが、病気でもないらしい。 ……いや、と顔をしかめておった」


 そう言って右脚をさする村長に、サフィラスは皺を帯びたブランケットを見据える。


「そうか――因みに、具体的な症状は?」

「信じて貰えぬかもしれんが、文字通り脚が棒になっているのだ。今はまだ関節は動くが、それもいつまで持つのやら……」

「……まさか」

「だが、それがどうかしたか――って、うおっ!?」


 サフィラスはブランケットを剥がすと、村長の右脚の患者衣を捲る。


「ああ……やはり、キミもにされてしまったのだね」


 意味深長に呟く彼の視線の先に在ったのは、膝から下が枝と化した、悲惨な患部の姿だった。ロアとリベラが言葉を失う中、村長は目を丸くしサフィラスの腕を掴む。


「――もしや貴君は、この病を知っておるのか!? 頼む、ワシに治療法を教えてくれ!」

「今から時間を貰えるのであれば、明日にでも薬草を用意しよう。エルリカへの対処策及び、調合手順を書き記した紙も、併せて出立の際に渡そう。異論は無いかい?」

「う、うむ。それは一向に構わぬが……何故貴君は、医師すら分からぬ病をひと目見ただけで――」

「では、私は一足先に失礼するよ。リベラとロアは、好きなだけ留まっていておくれ」


 サフィラスは立ち上がると、彼らの返事を待たずに医務室のドアを通り抜ける。残された三人は顔を見合わせると、揃って首を傾げた。

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