第37話

 一同が振り返った先には、白衣を着た老年の男と、ケインが立っていた。腰を曲げる男は、村長をまじまじと観察した後、しわがれ声で問い詰める。


「……ケイン君。見たところ、村長は特に怪我もされていないようだが。きみはまた、夢と現実を混同してしまったのかね?」

「な!? ち、違うってば! 今日ばかりはホントなんだって、信じてくれよ先生!」

「やれやれ……いい加減、きみも学習しないか。それとも、医師であるわたしに“虚言症”と診断されたいのかね? もっとも、わたしは精神科医ではないから、脳に損傷がないかを診ることしか出来ないがね」

「あ、あわわ……」


 慌てふためくケインに、医師は眼鏡越しに冷ややかな眼差しを送る。するとケインは、泣きつくようにユールに駆け寄った。


「お、おい、ユール! オレがいない間に何が起きたんだ!?」


 ケインに肩を揺すぶられるユールは、長い溜め息を漏らすと、座ったまま答える。


「ああ、えーと……説明が難しいな。けど、あえて言うならが起きたんだよ」

「……はあ? お前、そういうキャラじゃないだろ? なあ、アイラはホントのこと教えてくれるよな?」

「えっと……ユールは、うそついてないよ」

「え――ま、マジなやつ?」


 医師と顔を見合わせるケインに、やがてユールとアイラは笑顔を溢した。


◇◇◇


 そして時は半日ほど流れ。仮面を着けたサフィラスは、リベラとロアを連れ立ち、再び学園に向かっていた。


 ひっそりと静まり返る仄暗い廊下は、時折軋む音を立て、その度にリベラは肩を震わせる。


「ねえロア……おばけって、いると思う?」

「こ……ここにはいないと信じたいわ。ね、サフィラスちゃんもそう思うでしょ?」

「……」

「えっ――ちょっと待って、いるの?」


 小声で会話を繰り広げながら10分程歩くと、廊下の突き当りに、“医務室”と書かれたプレートが据え付けられたドアが現れた。その側、壁面から生えている小さな金色のベルを鳴らすと、数秒後に短い解錠音が聞こえる。


 薬品のにおいが漂う部屋には、クリーム色のカーテンに仕切られた空の病床が、五台設置されていた。いずれもシワひとつ無く、ピンと敷かれたシーツの上には真っ白な枕と、折り畳まれたブランケットが支度されている。

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