第36話

 サフィラスの忠告に我に返った村長は、ジェイドに一言詫びを入れる。


「……! 確かに、貴君の言う通りだな。ジェイドよ、この話は後ほどさせてくれまいか」

「え、ええ。分かりました」


 そうして、まばらに立つ生徒達三人に向き直ると、彼らにも頭を下げた。


「……ユール、アイラ、そしてエルリカ。不甲斐ないワシのために、色々と手を尽くしてくれたそうだな。迷惑をかけて、本当にすまなかった」

「謝らないでください。ぼくたちの方こそ、もっと早く動いていたら……ごめんなさい」

「うん。アイラ、全然知らなかった……村長が、ここまで苦しんでたなんて。だから、聞かせてほしいな……あの子のことも、ジェイドくんのことも。それと……村長のことも」


 視線の集まる右脚に、村長は杖を握る力を強める。しかし観念したかのように頷くと、重い口を開いた。


「……うむ、そうだな。隠し事はフェアでない上に、更なる誤解や猜疑心を生みかねん。長くなるが、みな覚悟はよいか?」

「はい! 望むところです!」


 ユールが間髪入れずに返事をすると、村長は目を丸くする。ブレザーからシャツが見え、着丈が合わなくなっている制服。いつの間にか数cm縮まっている、目線の差。アイラにも同様に、見落としていた成長の証が表れており、村長は涙腺を滲ませる。


『そうか、みなワシの異変を悟っており……それでも見限ることも、追及することもせず。ワシが向き合おうとする日を、健気に待っておったのだな』


 そして生徒の顔を一人ひとり見渡すと、上を向いて口髭をくるくると弄る。その間にサフィラスを除いた一同は、村長の前に弧を描くように床へ座り込み、今か今かと待ちわびる。


 その光景に、村長も杖を器用に使いこなして床に座ると、腕を組んだ。


「そうさな、どこから話すべきか……では初めに、エルリカがこの村で暮らすこととなった、その経緯から伝えよう。――あれは今からニ年ほど前。彼女の髪のように真っ白な雪が、しんしんと降り積もる日のことであった」

 

 まるで、就寝前の幼子に絵本を読み聞かせるかのように、村長は物柔らかな口調で語り始める。その場にいる全員が静かに耳を傾けていると、突如として扉を蹴破る音が部屋に響いた。


「っ、はあ……待たせた! ユール! 村長は無事か、って……ええ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る