第33話

「村長! ここにいるんですか!?」

「おーい、村長! 返事をしてく、れ――」

「きゃあああああ!」


 悲鳴を上げるアイラの目をユールが覆うと、ケインはすかさず村長に駆け寄る。そして血塗れの剣を拭っているサフィラスを見るや否や、怒声を飛ばした。


「……おい、お前がやったのか? お前、確かリベラたちと一緒にいたヤツだよな。まさか最初から、村長を殺すのが目的でここに来たのか!?」

「いいや、違うとも。私達はただ、旅の途中に立ち寄ったに過ぎない。どうやら彼は時をかけ、不運な偶然を集積したようだ。 ……その一部に、恐らくキミ達も含まれているだろうね」

「はあ? ……村長がこうなったのは、オレたちのせいだって言うのか!? お前、ふざけるのもいいかげんに――!」


 表情を変えずに剣を鞘に収めるサフィラスに、ケインは掴み掛かろうとする。だがエルリカが、サフィラスを庇うように立ちはだかった。


「っ――やめて、違うの! 村長を刺したのはこの人じゃない、私! だけど……本当は刺したくなかったの! だから――」

「お前ら何言ってんのか分かんねえよ! ……クソっ! 村長、今助けるからな!」


 エルリカを突き飛ばすと、ケインは村長の上体を持ち上げる。しかし次いで駆けつけたユールに、すぐさま制止された。


「待って、下手に動かしちゃ駄目だ! ここはぼくたちが何とかする。だからケインは、早く医者を呼んで来てくれ!」

「――ああ、分かった! ユール、頼んだからな!」


 ケインが駿馬の如く扉の外へ姿を消すと、アイラはハンカチを握り締めながら、ユールの隣にしゃがみ込む。


「……アイラも、手伝う! ユール、何をすればいいのか教えて……!」

「分かりました、ではアイラは気道の確保をお願いします! その間ぼくは――」


 二人の生徒が懸命に生命を繋ぎ止めようとしている後方では、リベラとロアが扉の裏から顔を覗かせていた。サフィラスが向かうと、ロアに小声で詰め寄られる。


「サフィラスちゃん、何があったの? それに、あの檻の中にいる子……もしかして、あの子が行方不明っていうジェイドなの?」

「ああ、あれは――不慮の事故だ。彼女の抑止力が、歪な形で発動してしまったのさ。そして、彼はジェイドで相違ない。 ……それよりも、何故彼らを引き連れて此処へ来たんだい? どうやら、笛も未使用なようだけれど……まさか二人揃って、思い出語りに絆された訳ではないだろうね?」


 凄むサフィラスに、ロアは一瞬視線を逸らす。しかし、すぐに真剣な面持ちで答えた。


「えっと……ええ。サフィラスちゃんの想像通り、みんなして昔話で盛り上がったのよ。その辺りも説明したいけど、今は先に村長を助けないと!」

『……キミ達は、なんて身勝手なのだろう。幾ら対処策を練ったところで、感情に思考を任せ軽率に行動を変えられては、意味を成さないというのに』


 サフィラスは喉まで迫り上げた苦言を、咄嗟に彼らが求める言葉で上書きする。


「……キミも、彼の救いを望むかい?」

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