第30話

 ロアの問い掛けに、ユールは頷く。


「はい。他の生徒は、口を揃えて「自分を捨てた親なんか、思い出したくもない」と言っていましたが……それでもぼくは、今も生きているはずの両親に会いたい。――たとえ邪険にされても、最期まで会えなくても良い。ぼくにとっての人生の目標は、親に会うことなんです」

「ユールくん……」


 しんみりとした空気の中、不意にケインは起き上がる。そして、きょろきょろとその場にいる全員の顔色を窺うと、歯を見せて笑った。


「なになに、村長とのエピソードトーク? じゃあ、オレも話させてもらうぜ! オレは三人兄弟の末っ子だったんだ。上二人の兄貴は、オヤジとおふくろと同じ――金髪に真っ黒な目をしてたんだけど、なんかオレだけ違くって。……そしたらある日、親父がオレに「お前は誰との子供なんだ!」って言って、殴りかかってきたんだ」


 平然と明かされる残酷な過去に、ロアは思わず口元を手で覆う。


「まったく、ヒドいもんだよな。 ……そっからオレの家は大荒れでさ。結局、家族全員に追い出されちまった。でも、今は別に怒っちゃいない。ユールやアイラ、他にもたくさんの友だちが出来たからな」


 そう言って照れくさそうに笑うケインに、ユールは怪訝そうな表情で腕組みをする。


「ケイン、お前……変なものでも食べたのか?」

「はあ!? んなわけないだろ!」


 そんな両隣でいがみ合う二人を物ともせず、アイラも、ぽつぽつと自身の幼少期を吐露し始める。


「えっとね……アイラの目標はね、みんなの役に立つことなの。アイラは5歳までお母さんとお父さん、二人と一緒だったんだ。けど……弟が生まれたら、ここに連れて来られちゃったの。 ……「後継ぎの男の子がいるから、アイラはもう要らない」って」

「そんな……」


 リベラが悲しみの声を漏らすと、アイラはふるふると首を横に動かす。


「でもね、村長が言ってくれたの。 ……「アイラは人の傷みや悲しみに寄り添える、とても良い子だ。身体を治療する薬は概ね有るが、心を治療する薬は未だ無い。そんなアイラの真の魅力を、これから生徒に少しずつ知ってもらえるよう、ワシも協力するぞ」……って」


 そう嬉しそうに話すアイラに、リベラもつられて微笑みを浮かべる。


「みんなそれぞれに、すごくつらい思いをしてる。それなのに、今はみんなすごく楽しそう。三人とも、この学園が――村長のことが大好きなんだね」

「えへへ……うん。でもね……たまに、怖いって思う時もあるの」

「そうなの?」

「うん……ケインとユールも知ってるよね?」


 しゅんと眉を下げ振り向くアイラに、ユールは強く頷く。


「はい。いつもは優しいのですが、時々ぼくたちには見向きもしないで、一人で歴史館の方に行くんです。……村長は、生徒の悩みには人一倍耳を傾けてくれる方です。けれど同時に、他人に弱みを一切見せない方でもあります。でも、ぼくたちは――」


 言葉尻を濁らせるユールに、ロアはそっと背中を押す。


「村長のことを支えてあげたいのね?」

「! はい。それが、ぼくたちに出来る最初の恩返しだと思っています」

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